マイワシ太平洋系群(以下マイワシと呼ぶ)の資源重量(バイオマス)と漁獲割合を下図に示した。
80年代後半の加入失敗で資源が減少すると同時に、漁獲割合が増加をした。
資源減少前の11年間(1976-1986)の漁獲率の平均は16%であり、比較的低目で安定していた。
1992年以降の平均漁獲率は41%であり、以前の2.5倍の水準まで跳ね上がっている。
マイワシ漁業のように、資源が減少すると同時に漁獲率が上昇する現象は、
管理されてない漁業にありがちなパターンである。
魚は数年といった時間スケールで減ることもあるが、漁業者はそれほど早く減らない。
マイワシのように高水準期に肥大した努力量で、減少した資源を利用すれば、
漁獲率が上がるのは自明だろう。
マイワシが豊漁だった時代に漁獲率が安定していたのは、
陸上の加工能力によって漁獲の上限がきまっていたからである。
資源が減少し、加工能力にゆとりができた結果、漁船の能力がフルに発揮されるようになった。
マイワシが回遊するタイミングや場所の違いで、毎年の漁獲率は変動するが、
低水準資源でもその気になれば4割から5割ぐらいは獲れてしまうのだ。
毎年、現存資源の40%を漁獲している現在の漁業を支えるためには、
マイワシ資源は毎年1.66倍に増える必要がある。
寿命が5年を超えるような生物にこのような高い生産力を期待するのは無理だろう。
1992年から2004年までの12年間でマイワシのバイオマスは5%まで減少した。
もし、この時期にマイワシの生産力が本当に低かったらどうなっていただろうか。
漁獲がない場合になんとか世代交替できるような生産力であったなら、
マイワシ資源は毎年60%に減り続けていたはずである。
0.6^12=0.002となるので、この場合に資源は0.2%(0.002)に減っていたはずである。
マイワシの生産力が低かったら500分の1に減っても仕方がないところを、
生産力が高かったために、20分の1の減少ですんだと見るべきなのだ。
漁業者が主張するように、マイワシが獲らなくても減るような状態であったなら、
とっくの昔にマイワシは幻の魚になっていたことだろう。
海洋環境が悪くてマイワシが減少しているのではない。
海洋環境が好適なおかげで、なんとか資源が存続しているのだ。
マイワシの生命力には驚かされるばかりである。
マイワシ資源は80年代後半から一貫して減少しているが、
その減少要因は大きく2つに分けることが出来る。
1988-1991年は環境変動による卵の生残率の低下が原因であり、1992年以降は漁獲率の上昇が原因である。
資源減少のきっかけを作ったのは、漁業とは無関係な卵の生残率の悪化かもしれないが、
1992年以降も資源が減少し続けたのは乱獲が原因である。
減少要因が変わったことは、年齢組成を見れば一目瞭然だ。
下の図はマイワシのバイオマスの年齢組成を示したものである。
1988年から1991年までは、新規加入(0歳)が殆ど居ないことに注目して欲しい。
この時期は新規加入が途絶えたために、若齢魚がどんどんといなくなり、
高齢魚が資源に占める割合が上昇していく。
環境が悪い場合(=卵の生き残りが悪い場合)には、必ずこのような年齢組成パターンになる。
加入が失敗した年に産まれたコホートは黒い実線で囲んでみた。
これらのコホートのバイオマスが特異的に低いことがわかる。
対象となる期間をのばしてみると、その傾向はさらに明確になる。
1988年から1991年の4年間は特異的に0歳の加入が少なくいことがわかる。
1992年以降は、0歳魚が毎年安定して発生し、
数年後には以前と同じような年齢組成に戻っている。
この時期の卵の生き残りは良好であり、海洋環境が資源減少の原因とは考えられない。
日本国内では、海洋環境が変動したからマイワシが減っているというのが定説であるが、
この定説を改める必要があるだろう。
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Comments:1
- 県職員 07-02-07 (水) 8:47
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資源担当でありながら,「低水準期にある浮魚資源の管理」を最近読むまでマイワシ資源の増減のメカニズム現状についてはよくわかっていませんでした。こういう事を地道に漁業者にも伝えていかなくてはなりませんね。
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