「近海洋環境がマイワシに不適だから、資源が低迷している」と広く信じられている。
しかし、いままで見てきたように1992年以降のマイワシの生産力は低くない。
卵の生残率も、成長も、成熟も悪くないのだ。
では、海洋環境がマイワシに不適だという根拠はどこにあるのだろう?
近年のマイワシ減少が海洋環境の変化に由来するという
最大にしておそらく唯一の根拠はWatanabe et al. (1995)だろう。
この論文は、1988-1991年に産まれた卵が漁獲開始前に死んでいたということを示した。
漁獲開始前に死んでいた→減少は漁業以外の要因→海洋環境にちがいない
というロジックが成り立つわけだ。
このロジックはわかりやすく、非常に説得力がある。
俺もこの研究の内容および結果は、妥当だと思う。
ただ、このロジックの有効範囲は、マイワシの卵の生き残りが悪い時期に限定される。
1992年以降のマイワシの卵の生き残りは良かったことは数字が如実に示している以上、
渡邊ロジックで1992年以降の海洋環境がマイワシに不適だったというのは無理だろう。
要点
海洋環境が悪いという説は、消去法によって導かれたものであり、
その消去法は1992年以降は成り立たない。
実は、どういう海洋環境がマイワシに不適であるかは特定できていない。
いろんな説はあるけれど、どの指標も資源変動を明確に説明できるわけではない。
「そういう風に言われると関連ありそうに見えないこともない・・・かなぁ?」
というレベルのものも少なくない。
そんな中で、最も関係がありそうだと言われているのがアリューシャン低気圧(NPI)である。
確かに、ここ100年ぐらいはNPIとマイワシの変動が同期しているように見える。
マイワシが豊漁であった1930年代、および、70年代後半から80年代前半にNPIは低い値を示している。
逆にマイワシが幻の魚と言われた60年代には高い値を示している。
さらに、加入が失敗した1988-1991年のNPIは特異的に高くなっている。
NPIが高い時にマイワシは減り、NPIが低いときにマイワシは増える傾向があるようだ。
NPIは1992年以降は低水準で推移していることに着目して欲しい。
一般に信じられているようにアリューシャン低気圧がマイワシの変動を支配しているならば、
1992年以降にマイワシは増えたはずなのだ。
要点
マイワシの変動を明確に説明できる指標は存在しない。
マイワシの変動に影響を与える最有力候補はアリューシャン低気圧である。
アリューシャン低気圧的を見る限り、1992年以降はマイワシ増加期に相当する。
調べれば調べるほど、最近の海洋環境がマイワシに不適であるという根拠が揺らいでいく。
にもかかわらず、88年以降、ずっと海洋環境条件が悪くて、
マイワシ資源が長期低迷しているという定説が広まっている。
なぜ、このように誤った考えがここまで広まってしまったのだろうか。
その原因を分析する必要があるだろう。
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Comments:1
- 県職員 07-03-02 (金) 8:55
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-調べれば調べるほど、最近の海洋環境がマイワシに不適であるという根拠が揺らいでいく。
にもかかわらず、88年以降、ずっと海洋環境条件が悪くて、
マイワシ資源が長期低迷しているという定説が広まっている。
なぜ、このように誤った考えがここまで広まってしまったのだろうか。その原因を分析する必要があるだろう。-その一
漁業者はそれを口実にすれば,乱獲も許されるし,行政や研究サイドも漁業者が乱獲していても黙認しやすいからというのはどうでしょう。行政や研究所(今は水研は違いますが)は公務員なので,過去のデータを基にして行った予測や,研究結果が,その後の実測値とは違っていると,漁業者だけでなく身内にも叩かれるのであまり強いことは言えません。強いことを言わなくても給料は貰えます。所詮,魚は無主物なので,減っても責任は漁業者にあると考えれば気が楽です。その二
資源解析は難しくて,ちゃんと理解できないので,聞く人都合の良いところ,理解できるフレーズだけ切り取って頭に入れてしまう。周りにいる水産研究に携わっている方でもそういう傾向があります。国費,県費を大量に支援策に投入して休漁などを行わせ資源回復を計るという壮大な実験であった資源回復計画支援事業(正式名称は失念)も,不景気で県などが金を捻出できず,やや尻すぼみになってきているのがなんとも残念です。
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