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鯨食非難の原因は、食品に対する無知と想像力の欠如

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オーストラリアの「クジラ食べるのは野蛮な行為」という偏見の根底には、
人種差別と言うよりは、自分たちが食べているものに対する無知があると思う。
それは、豪州人のみならず、我々日本人にも当てはまる現代病である。

我々はスーパーマーケットでパックに詰められた加工済みの肉を買う。
その肉がどのようなプロセスで生産されたかを消費者は知らない。
だから、肉を食べるときに罪悪感を感じることはない。
それは、想像力の欠如である。
生産に関する情報は完全に遮断されている。
それは、罪悪感を感じたくない消費者と、
食べる側の罪悪感を払拭して売り上げを伸ばしたい生産者の双方にメリットがある。
消費社会において、食品生産の現場に関する想像力は退化する一方である。

そういった想像力が欠如した中で、
豪州では、クジラに関してのみ、生産現場のショッキングな情報が流された。
それが出来たのは、彼らの国に捕鯨産業が無いからである。
ショッキングな情報に対する豪州人のリアクションはリテラシーによって異なる。
脳髄反射的に野蛮な日本人を攻撃する人間もいれば、
その背後にある問題を捉えた上で「でも牛も豚もそうだよね」と考える人間も大勢いる。
前者がYoutube、後者が新聞とメディアを棲み分けているのも面白い。

豪州人の想像力の欠如に対して、とやかく言う資格は日本人にはない。
日本でも、食品生産の現場に関する想像力は欠如している。
例えば、トンカツ屋のメニューにかわいい豚のイラストが描いてあって、
「このかわいい動物を食べてるんだよな」とげんなりしたことがある。
「この店は無神経だ」と思う反面、「それが事実だと受け止めた上で、
豚に感謝をして食べないといけない」とも思った。
そのイラストを採用した店の側には、
かわいい豚のイラストと調理された豚肉をつなぐ想像力が無い。
俺にしても、その瞬間に少し嫌な気分になっただけで、
普段は何も考えずに、食べているだけだ。 

庭で飼っていた鶏を締めて食べるといった経験を、我々の多くはしていない。
手の中で必死にもがく生き物を殺した経験など、殆どの人が無いだろう。
一方、我々の食を支えるために、毎日、どれだけの動物がもがきながら殺されているか。
我々は自分の手で生き物を殺さないという特権を、金で買っている。
自分の手を汚す代わりに、金を払って、代わりに殺してもらっているだけである。
それによって、道義的な道義的な罪悪感を感じずに済んでいる。

想像力の欠如は、クジラに関しても同様だ。
たしかに、クジラに感謝する鯨塚のようなものはあるし、
昔の日本人は食べ物に対する感謝の感覚を持っていたのだろう。
その感覚を現代の日本人は失いつつある。
明治以前は殆どの日本人はクジラを口にしていなかった。
日本人の多くがクジラを口にしたのは食糧難の時代であり、
文化というよりは栄養的なものが背景にあった。
自分自身が給食でクジラ肉を食べるときにも、
その他の肉と同様にその生産過程には無関心であった。
現在は、クジラが希少価値ゆえに有り難がられているだけで、
スーパーに普通に並ぶようになったら、他の食材と同じように、
ただ、買ってきて食べるだけのものになるだろう。

Comments:2

08-12-02 (火) 21:25

はじめまして。現在大学4年で捕鯨バッシングについて卒論研究をしています。

「鯨食非難の原因は、食品に対する無知と想像力の欠如」という見解になるほどと思わされたのですが、こちらの記事の根拠となるようなデータや文献がありましたら教えていただきたいと思いコメントさせていただきました。外国では日本よりも食品がそのままの形で売られていることが多く、また日本のように穢多・非人のような歴史もないので、それほどの嫌悪感にいたる理由が知りたく思います。お手数でなければよろしくお願いいたします。

勝川 08-12-06 (土) 1:23

初めまして。
自分の仕事だけで手一杯なので、
あなたのお手伝いはできません。
健闘をいのります。

また、成果を当ブログに投稿していただけると
私としてはうれしいです。

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