日本の意志決定とは何か?

日本には独自の意志決定の伝統がある。伝統的な意志決定方法の特徴を理解するには、日本漁業の歴史を無視することはできない。60歳以上の漁業者に聞けば、日本の沿岸には今からでは考えられないほどの魚がいたことがわかる。魚を巡る競争が激化したのは、ここ数十年なのである。それまでは、魚よりもむしろ漁場や漁港を巡る争いであった。当時の漁具で効率的に魚が捕れる場所は限られていた。当時の船の動力では沿岸の漁場しか利用できなかった。当時の土木技術では、漁港として利用できる場所も限られていた。日本漁業が伝統的に直面していたのは、限られた漁場や漁港を誰が使うかという問題である。場所を巡る競争であれば、その場所を希望する当事者間の折り合いがつけば解決になる。

魚村の内部のことは、構成員全員で話し合う。複数の村にまたがることであれば、それぞれの村の代表同士が話し合う。最終的な決定権はコミュニティーのリーダーにあり、個人的な不満があっても、最終的には村の構成員代表の決定には従う。このような調停システムによって、利害を調整してきたという歴史がある。

沿岸漁業においては、資源管理の問題も、これと同じアプローチで処理された。皆で話し合って「できることをできる範囲でやる」というのが、資源管理型漁業の基本である。ことになる。日本以外の国ではどうかというと、管理には必ず目的がある。MSYにせよ、持続的利用にせよ、何らかの目標を設定し、その目標に到達できる方策を考える。複数の方策があれば、その中で何がベストかを選択することになる。前者を日本型意志決定、後者を合目的意志決定と名付けると、次のように図示できる。

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日本型意志決定には、明確なゴールがない。進むべき方向性にできる範囲で進んでいくというアプローチだ。合目的な管理の枠組みを前提とした欧米人にはなかなか理解できないだろう。実際に、京都のズワイのMSC認証でも、このあたりの理解を得るのに時間がかかっているのだろう。

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日本の意志決定とは何か? への2件のフィードバック

  1. 業界紙速報 のコメント:

    本日、業界各紙に「TAC(漁獲可能量)制度等の検討に係る有識者懇談会」について報道されております。24日に虎ノ門パストラルで第一回会合が開催され、会議は公開となっています。
    ついに、氏の報告になる北海道新聞の記事のような報道は業界紙にはありませんでした。この会議にしても、その名が有識者懇談会となっていることから、なにやら妖しげな雰囲気が漂っておりますが、懇談会メンバーには高木委員会の黒倉氏が入っていると水産通信では強調してあります。メンバーは以下の方々のようです:
       秋岡榮子(経済エッセイスト)
       石井勇人(農政ジャーナリスト)
       大倉重信(全底連専務)
       川本省自(全まき副会長)
       黒倉 壽 (東大大学院農学生命科学研究科教授)
       桜本和美(東京海洋大海洋科学部教授)
       須能邦雄(石巻魚市場㈱社長)
       長屋信博(JF全漁連参事)
       馬場 治 (東京海洋大海洋科学部教授)
       藤島浩晃(北海道水産林務部技監)
       山川 卓 (東大大学院農学生命科学研究科准教授)
       山下 潤 (水産庁資源管理部長)
       和田時夫(水研センター水産工学研究所長)

    しかし、漁獲可能量についてオープンに話し合う場に、漁業者の方がいないのは不可解、ではあります。

  2. 勝川 のコメント:

    今後の議論の推移を見守るとして、まあ、こういうのはできレースです。
    すでに懇親会の結論は役所の内部では固まっているでしょう。
    ちゃんと見直すことになっているんだろうか?
    しんぱいだなぁ。

    石井さんというのは農政ジャーナリストということだけど、
    どうせなら、水産に強い井田さんにすればよいのに。
    このメンツで水産庁サイドが警戒するのは黒倉先生でしょうね。
    あとは、山川さんぐらいかな。
    やばいネタを議論する会議は、
    黒倉先生と山川さんが出席できない日に開催すればそれでオッケーですね。
    懇親会の日程を、東大の教授会と重ねれば、その日は何でもありですよ。

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