日本のTAC制度はオリンピック制度ですらありません

みなと新聞で読んだんだけど、TAC制度等の検討に係る有識者懇談会が、「日本はオリンピック制度ではない」と主張しているようである。珍しく正しいことを主張していて驚いた。

オリンピック制度とは、持続性の観点から漁獲枠を決定し、それを早い者勝ちで奪い合う資源管理方法である。一方、日本は、持続性を無視した漁獲枠を設定し、漁獲量が漁獲枠に近づいたら、漁獲枠が増えていく「青天井システム」を採用している。漁獲枠など有名無実であり、なんら漁獲量の抑制効果がないのだから、オリンピック制度ではなく、無管理と呼ぶのが正解だろう。

米国やカナダは馬鹿正直にオリンピック制度を行い、過剰な漁船を抱えたまま、漁期を短縮させた。漁期が1週間とか、3日とかになってしまったのだ。漁期が極端に短くなろうとも、魚を残す努力をしたのだから大したものだ。日本の場合は、低水準で減少している資源にも、漁獲にブレーキを全くかけていない。たとえば、スケトウダラ日本海北部系群。資源がこんなに減っているのに、漁獲割合はむしろ上がっている。管理されている資源なら、あり得ない話である。まともな漁業国なら、もっと早くに漁獲量を絞っているし、ここまで減ったら漁獲枠はゼロだよ。今年は、ABCが現状維持の4.6千トンに対して、TACが1万8千トンだから、お話にもなりやしない。こんなに減らしてしまったんだから、資源回復を最優先すべきであり、現状維持でABCを出す研究者にも問題がある。まあ、そんな問題は霞んでしまうほど、水産庁が設定したTACは非常識だけど・・・
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オリンピック制度は漁獲枠を巡る競争である。
一方、日本の漁業者は、実質的な漁獲枠が無い中で、魚を奪い合っている
オリンピック制度と日本のTAC制度の間には、スポーツと戦争ぐらいの差がある。
日本のTAC制度をオリンピック方式と呼んだら、まじめにオリンピック方式を実施してきた国に失礼だ。

カテゴリー: 漁業改革, 研究 タグ: パーマリンク

日本のTAC制度はオリンピック制度ですらありません への2件のフィードバック

  1. 業界紙速報 のコメント:

    なにがしか速報を出させてもらったり、いろいろコメントさせてもらおうとしているうちに、世の中の動きが目まぐるしくなって追いついていけないなあと思っていたら、TAC懇親会が話をとりまとめてしまいましたね。

    氏には某経済学者は相手にするなとご進言申し上げましたのに、こともあろうに直接対決しなさったとは。誰かに嵌められたんでしょうけど、自分の看板をもっと大事にしていただかなければなりません。氏がいみじくも自ら語っておられるように、将来を擲って水産業界をよくしようと行政サイドに諫言しておられる姿は、痛々しくも神々しいものです。他の人もコメントしておられますが、今後、某経済学者と席を同じうするようなことは絶対やってはいけません。

    さて、TAC懇親会が考え方をまとめたと各業界紙に載ってます。ボケッとしてる間に議事録もたくさん出てしまってとても読みきれませんが、懇親会の結論は「現在の我が国のTAC制度は我が国水産業界の実情に適合した優れた制度である」とのこと、ですよね。こんな結論出すだけなら、なにも超多忙な業界重鎮の方々に御参集いただかなくてもよかったのではないでしょうか?

    選りにも選って、我が国の資源管理はオリンピック方式じゃない、なんて真剣に議論しているとは!そもそも、オリンピック方式というのは資源管理の手法を指す言葉ではなく、資源管理手法の欠陥を揶揄する言葉ではなかったんですか?(須能委員のおっしゃるとおりに理解しています。)オリンピック方式で資源管理している国が有りや否や、なんて懇親会の茶飲話でするのもおこがましい限りのことです。我が国では自主管理が行き届いているから漁獲制限に引っかかって漁期を大幅に短縮したというような事例はない、だからオリンピックではないんだ、なんてどこかのネジがはずれてしまっているんじゃないのかなあ。
    しかしながら、氏が指摘するように、オリンピック方式っていうのは漁獲許容上限に達した時点で漁獲を止める管理手法なんだと認識してみると、我が国では期中改訂等の手法により漁獲を止めることは稀であることを考え合わせれば、氏の指摘は実に奥が深いものだとしみじみ感心してしまいます。(だからこそ、看板を大切にしてください。)

    ところで、懇親会が討議していたのは、TAC制度の課題と改善方向だと思っていましたが、結論として現状なにも変える必要はないというだけ。この懇親会の結果、水産庁は我が国の水産資源は我が国の実情に合わせて適切にマネージされていますというお墨付きを得る、漁業者は自主的な管理がうまく働いているんだからなにも改善するところはないんだと胸を張れる。某経済学者が言うように、現在の我が国の水産資源は悪化なんかしてない、という観点に立脚するんであれば、制度の改善とかなんとか現状を変える必要ないということになりますね。

    これって変じゃないですか?
    水産業界の人たちは、我が国の水産資源の現状をどう思っているんでしょうか?豊穣な海に囲まれた我が国の水産資源は悪化なんかしていないし、漁業者の自主管理に任せておけば大丈夫なのさ。こんな風に思っているんでしょうか?現在の我が国のTAC制度は我が国水産業界の実情に適合した優れた制度であり、もう少しだけ透明性を高めればいいのであって、問題はない。我が国の水産業は、漁撈・流通販売・加工も含めて、このまま何も変えないでいいんだ。こんな風に考えるもんなんでしょうか?優れた管理制度の下で漁獲制限をしたんだ、燃油が高騰したんだ、と言って行政に補助金を出すように圧力をかける、こういうことを続けていけばいいのでしょうか?

  2. 勝川 のコメント:

    >氏には某経済学者は相手にするなとご進言申し上げましたのに、
    >こともあろうに直接対決しなさったとは。誰かに嵌められたんでしょうけど、
    >自分の看板をもっと大事にしていただかなければなりません。

    べつに、岩崎さんとお仲間が出てきたところで、
    ヤジを飛ばすぐらいしかできません。
    そんなもので、どうこうなるような安っぽい看板ではないので、ご安心を。
    並べてみてどちらの意見が妥当かは、会場の人間が決めることです。
    「もう少しうまくやれたのに」という反省はありますが、
    べつに、失うものなどないですよ。

    >将来を擲って水産業界をよくしようと行政サイドに
    >諫言しておられる姿は、痛々しくも神々しいものです。
    >他の人もコメントしておられますが、今後、某経済学者と
    >席を同じうするようなことは絶対やってはいけません。

    もう行政は相手にするだけ時間の無駄という気がしています。
    今後は、国民、漁業者に直接どのように働きかけるかですね。

    あと、神々しいというのは、宗教みたいなので勘弁してください。
    痛々しいも、ちょっと弱そうで嫌ですね。
    「痛い」ぐらいの評価が、個人的にはちょうど良いです。

    岩崎さんが「漁業に問題はない」と怒鳴るほど、人の心は離れていきます。
    勝手に自爆してくれるのだから、彼が出てくるのは大歓迎です。
    ただ、相手に合わせて、こっちもエラーしてしまったのは、まずかった。
    そこは、反省し、次回に活かしたいと思います。

    >懇親会が討議していたのは、TAC制度の課題と改善方向だと思っていましたが、
    >結論として現状なにも変える必要はないというだけ。
    >この懇親会の結果、水産庁は我が国の水産資源は我が国の実情に合わせて
    >適切にマネージされていますというお墨付きを得る、
    >漁業者は自主的な管理がうまく働いているんだから
    >なにも改善するところはないんだと胸を張れる。
    >某経済学者が言うように、現在の我が国の水産資源は悪化なんかしてない、
    >という観点に立脚するんであれば、制度の改善とかなんとか現状を
    >変える必要ないということになりますね。

    議事進行は役所のお膳立て通りだし、
    要所要所で天下りの漁業関係者が、
    方向性を決めて終わり。
    水産庁OBと水産庁現役が、「俺たちは悪くない」と
    言いたいだけ。
    典型的な大本営発表ですね。
    そもそも、なぜTAC制度が批判をされているのかすら整理していない時点で、
    議論をするつもりが無いのは明白でしょう。
    前任者はそれなりにやろうとした形跡はありますが、
    会議には全く反映されていませんでしたね。

    ただ、大本営発表にしても、やり方が古いです。
    こういうやり方が通用ない世の中になったから、
    TAC制度が批判に晒されているわけです。
    こんな茶番では火に油をそそぐだけだと、何でわからないのだろう。

    あと、岩崎さんを経済学者と呼ぶのは、まともな経済学者に失礼です。
    日本のTAC制度をオリンピック制度と呼ぶようなものですね。

    >これって変じゃないですか?
    >水産業界の人たちは、我が国の水産資源の現状を
    >どう思っているんでしょうか?豊穣な海に囲まれた
    >我が国の水産資源は悪化なんかしていないし、
    >漁業者の自主管理に任せておけば大丈夫なのさ。
    >こんな風に思っているんでしょうか?

    今のままで良いと思っている関係者はいないでしょう。
    ただ、漁業者の多くは村社会の保守的メンタリティーで、
    変化が怖いのだと思います。
    その漁業者心理を利用する形で、某組織と某組織が
    規制改革のネガティブキャンペーンを展開しています。
    こういうところだけは、頭が回りますね。

    改革によって、某組織と某組織が既得権を失う代償として、
    多くの漁業関係者と国民が利益を得るはずです。
    このことを、国民&漁業関係者に直接伝えていくのが来年の課題です。
    いろいろと準備していますので、お楽しみに。

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