「ふやす」は、攻めか?

水産総合研究センターの成果発表会が開かれるらしい。 
http://www.fra.affrc.go.jp/seika/

今年のテーマは「ふやす、とる、たべる-攻めの水産研究-」だそうです。

相も変わらず、増産のための研究しかしていないのですが、
それを攻めの水産研究と呼ぶあたりが、なかなかお茶目ですね。

ここ30年ぐらいの歴史を振り返ってみると、
「減った、獲れない、輸入-自滅の水産業-」であったわけです。

減ってしまった資源を種苗放流で回復させよう、というのが水産庁の考えです。
種苗放流には、何十年も湯水のように税金を投入してきました。
そろそろ効果が出てきても良いと思うのですが、資源の減少はとどまる様子がない。
「種苗放流って、効果がないんじゃないの?」と考えるのがふつうでしょう。

栽培漁業は効果が出る種と出ない種の差が顕著です。
栽培漁業が効果的だったのは、海草類やホタテ貝のような定着性の生物です。
張り付く場所を提供することで、安定的に生産できるようになりました。
磯焼けなど様々な問題点もありますが、これらの種にとって栽培漁業は機能しました。
一方、魚類に関しては、種苗放流はあまり機能していないのが実態です。
種苗の大量生産に成功をして、もっとも積極的に種苗放流が行われているのはヒラメです。
平成16年度でみると、生産量で39%、放流尾数で33%でどちらも一位です。
http://www.jasfa.or.jp/00kenkyu/001topics/060topics_083.html
さて、種苗生産の成功例であるヒラメの資源がどうなったか見てみましょう。

漁獲量はこんな感じです。

semenosuisann.png 

ぜんぜん、増えてません!

一応横ばいなので、一般的な底魚よりはマシといえるでしょう。
ただ、種苗放流にかかるコストをかんがえると、果たして黒字になるかは疑問です。
(このあたりは、今後、情報を集めてみます)
ヒラメは種苗の生産には成功しましたが、資源の増加には結びつかなかった。
すでに全国で大量に種苗を蒔いているのにこの程度ですから、
今後も減ることはあっても、増えることはないと思われます。

しかし、今後、種苗生産技術が飛躍的に向上しないとは限りません。
もし、放流技術が革命的に進歩をして、ヒラメ資源が増加したならば、
日本の漁業生産は回復するのでしょうか?
2005年の漁獲統計を見てみましょう。
http://www.maff.go.jp/toukei/sokuhou/data/gyogyou-yousyoku2005/gyogyou-yousyoku2005.xls
ヒラメの漁獲量は6千トン、海面漁業は4412千トンだから、
海面漁業生産の0.136%です。

種苗生産の成功例といわれるヒラメですら、
漁業全体の0.1%程度の小さな資源を横ばいにするのが精一杯
なのです。
種苗放流で日本の漁業生産を回復させるのは、
B29を竹槍で撃退するのと同じぐらい無理があるでしょう。

漁業生産の減少は、資源の枯渇が原因です。
親を残さなければ子供が居なくなるのは当たり前のこと。
充分な親を獲り残すこと以外に、資源を回復させる道はないでしょう。
一番大切な「のこす」というキーワードが抜けているのです。

過去30年、結果を出せなかったことを今も繰り返しているだけで、
「ふやす、とる、たべる」というキャッチコピーには、何の新鮮さもない。
現状の組織を守るための極めて保守的な方向性と言えるでしょう。
資源の現状に目をやらずに、増やす、増やすと非現実的なことを繰り返している。
これは「攻め」ではなく、「現実逃避」でしょう。
従来の「多く獲る漁業」から、「ちゃんと残す漁業」へと方向転換をすることが、
本当の意味で攻めの水産政策であり、そのための研究をして欲しいものです。

カテゴリー: 研究 パーマリンク

「ふやす」は、攻めか? への10件のフィードバック

  1. kato のコメント:

    ヒラメ。生産額で見ると比率は10倍くらいになると思います(それでもせいぜい1%ですが)。

    「足りないから輸入」というより、国産では価格・規格・納期の点で合わないからという面も大きいのでは?サバが豊漁でも文化干は全てノルウェー産だったり、人気のない秋鮭が輸出される一方で輸入されるサケマス類も多いわけです。

    それとごく沿岸域の漁獲減は、確かに獲りすぎ要因も大きいですが、護岸開発など環境変化の影響もあるように思えます(こちらは国交省の管轄になるという話です)。「親を残しても子が育たない」→「種苗放流」?なのでしょうか。

  2. 勝川 のコメント:

    種苗放流で、漁業生産の減少を食い止めるは不可能ということを言いたかったので、
    非常におおざっぱな話をしました。
    より厳密に見ていくと、漁獲にしめる種苗放流魚の割合を加味する必要があります。
    ヒラメの漁獲量に占める種苗放流魚の割合は、中部地区では11%と推定されています。
    全体の10%が種苗放流魚だと仮定すると、
    種苗放流によるヒラメの生産量は、漁業全体の0.01%で、生産額は0.1%になります。
    種苗放流に関しては、いずれきちんとまとめたいと思っています。

    マーケットの動向に関しては詳しくないので、教えていただけると幸いです。
    >国産では価格・規格・納期の点で合わない
    資源が低下→漁獲量低下→安定的に供給できない
    という構造があると理解しています。
    資源にマージンがないから、その時に獲れるものを獲る。
    資源状態が良ければ、もっと計画的に漁獲できるはずです。

    環境悪化の影響は大きいことは間違いありませんが、
    資源に与える影響を定量的に評価するのは困難ですね。
    「親を残しても子が育たない」という状況は希です。
    主要な魚種で、満足に親を残している漁業は殆どありません。
    いろんな魚種の資源評価の結果を見てみると、
    ちゃんと親を残せば、充分に回復できる生産力はあるように見えます。

    環境破壊と種苗放流は、鶏と卵です。
    産卵場を開発する見返りとして、種苗放流が行われてきました。
    「蒔いてやるから、開発させろ」ということですね。

  3. ユウラ のコメント:

    はじめまして。
    大学で水産学を専攻するものユウラというものです。

    私は漁業者(実際に資源を管理する側)と行政(漁業者に管理を促す側)の意見の相違点に着目しているので、ここのブログは参考になる部分が多く楽しく拝見させていただきました。

    種苗放流があまり効果は期待できないということは聞いたことがありますが、ここまで具体的なデータを見てみるとなにやっとんねん、とツッコミいれたくなりますね。

    この資金を補償制度にまわしたほうが資源の回復に繋がるのでは、と思うのは私だけでしょうか?

    これからもまたご訪問させていただきます。

  4. オニダルマオコゼ のコメント:

    はじめて投稿させていただきます。
    一連のご主張,たいへん興味深く拝見させていただきました。

    私は種苗放流の効果が全くないとは言いませんが,種苗放流しさえすればあたかもバラ色の未来が待ち受けている,と漁業者に当初の期待を抱かせてしまった(少なくとも栽培漁業が始まったころにはそうだったでしょう)のは罪作りな政策展開だったといわざるをえないと思います。すべてはボタンの掛け違えから始まったのです。

    このようなことを続けていると,どんな苦労をしてでも自分達の力でなんとか現状を変えて良い方向へ持って行こうと「歯を食いしばって踏ん張る」方向から眼をそらし,痛みを伴わない安易な他者依存(他力本願)の方向へと漁業者を誘導してしまいかねないということは,栽培漁業の負の側面(副作用)として以前から言われてきたと思います。

    あげくの果てには「行政に対する要望は強く主張するが,自らは行動しない」という安易な行動パターンの漁業者を大量生産することになり,種苗放流という甘言なしには生きていけないシャブ漬け体質に漁業界全体を追いやってしまったといえるのではないでしょうか。(茹でガエルと表現したほうが良いのかも知れません。)

    ただし,政策誘導型実践運動としての「資源管理型漁業」の全国展開が謳われはじめた当初は,それまで狩猟本能一辺倒だった沿岸漁業者達に,種苗放流をテコにしながら,「なるほど,資源も大切にせんとあかんね」という意識を芽生えさせて行き渡らせたという,当時の歴史的な意義はあったと思います。

  5. 勝川 のコメント:

    ユウラさん、はじめまして
    漁業者と行政の意見の相違点とは濃いテーマですね。
    11月に東大海洋研で合意形成のシンポジウムがあります。
    http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2006/061122ORI.html
    参加は無料・自由ですので、よかったらどうぞ。

    >この資金を補償制度にまわしたほうが資源の回復に繋がるのでは、
    >と思うのは私だけでしょうか?
    海の中の魚の生態はわかっていないものが多いんです。
    基礎的なフィールド調査をもっとやる必要があるのですが、
    予算は削られる一方ですね。
    その一方で、栽培漁業には桁違いの予算がつぎ込まれています。

    オニダルマオコゼさん、はじめまして
    私も栽培漁業は全てが悪だとは思いません。
    当時の状況を考えると栽培漁業に大きな期待をしたのも
    無理もないと思います。
    残念ながら、思ったような結果が出なかったわけですが、
    その後の対応がまずかった。
    ボタンの掛け違えに気づいた時点で、ボタンを外さないと行けなかったのに、
    掛け違えていることを知りながらボタンをはめ続けた。
    効果を厳密に評価した上で、効果が出たものだけを残すようにしていたら、
    もっと役に立つ栽培漁業が実現できていたと思うのです。

    水産庁と漁業者は、甘やかす親と甘えた子供の関係ですね。
    短期的に見れば甘やかすのはとても楽ですが、
    長期的には確実に子供をダメにします。

  6. ユウラ のコメント:

    シンポジウムのお知らせありがとうございます。

    その時期に卒論の中間発表があるかもしれないので確実にいけるとはいえないですが、可能であれば足を運ばせていただきたいと思います。

    フィールド調査の予算削られているのですね。
    間違ったお金の使い方・・水産界にもあるのですね。

  7. 匿名で甘えさせてもらっているヒト のコメント:

    オニダルマオコゼさんへ
    「行政に対する要望は強く主張するが,自らは行動しない」漁業者が何故できたのか?,いるのか?
    答えは極めて簡単で,『栽培漁業』に対して,大きな魅力を感じていない(自らの利益と結びつかないことを知っている)からだと,私は考えています。

    サケやホタテなんかの場合は,そりゃぁ,熱心です。なんたって,生産額が半端じゃないですもんね♪ それで生計立ててるんだから,励みますって!

    しかしながら,その他の多くの魚種の場合は,結果が見えないんです。だから,『放流すれば,少しは漁獲の足しになるべ』くらいの気持ちで,力,入らないんです。まぁ,ダメもとで,『やってもらえるんなら,ラッキー』
    でも,金になるかならないか分からないものに,手間隙かけてらんない,って感じじゃないでしょうか?

    氏へ
    11月のシンポですが,22日は未だ『予定』なのですか?・・・『決定』はいつになるのでしょう???

  8. 勝川 のコメント:

    ユウラさん
    >間違ったお金の使い方・・水産界にもあるのですね。

    一度始めた事業は、成果が出なかったしても、
    姿形を変えて、生き残ります。
    予算が、既得権として固定化してしまうから、
    どうしても無駄はでてきます。

    匿名で甘えさせてもらっているヒトへ
    シンポの日程が今から変わることは無いと思いますが、
    松田さんに確認をしてみますね。

    種苗放流には、様々な副作用がありますよね。
    天然個体群との競争とか、生態系への負荷とか、
    遺伝的多用度の劣化だとか。
    そういう副作用って、漁業者にどの程度認知されているのでしょうか?

  9. 匿名で甘えさせてもらっているヒト のコメント:

    『種苗放流の副作用を漁業者がどの程度認知しているか?』

    ・・・。。。(〃__)σ

    KVHが蔓延してしまったように,あまり,『副作用』を認識しているようには思えません。
    病気の場合は,目に見えて被害が分かるので,多少はビビっているかとは思いますが,種苗を個人ベースであちらこちらから購入したりしているところを見ると,『自分だけは大丈夫』と裏付けのない自信を持っているような気がしてなりません。

    まして,多様性や生態系への影響等については,全く念頭にないかもしれません・・・っていうか,『ない』かな・・・。

    ただし,これらについては,事務方の行政サイドにも言えるかもしれないと思うのは,私だけでしょうか?

    行政サイドについては,不勉強のそしりを免れませんが,漁業者に,それを求めるのは,少々酷かと思います。なぜならば,漁業者の全てがそのような教育を受けてきているわけではないからです。

    漁業者の認識の甘さは,むしろ,現場に入っているはずの我々に責任があると自責の念にかられます。
    ことあるごとに言っているつもりではありますが,所詮,『つもり』なのですね・・・

  10. 勝川 のコメント:

    >『自分だけは大丈夫』と裏付けのない自信を持っているような気がしてなりません。

    漁業者は根っからのギャンブラー気質だからなぁ・・・

    種苗放流の危険性に関しては、国内では殆ど研究していないから、
    行政サイドにも伝わるはずがないですね。
    種苗放流に関わるひとは、基本的に推進派だから、まずい結果が出そうなところには手を出さない。

    魚類学会は、「生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン」を作ってます。
    http://www.fish-isj.jp/info/050406.html
    本当は、量的に桁外れに放流している水産分野こそ、
    ガイドラインを作る必要があると思うんだけど。

    >ことあるごとに言っているつもりではありますが,
    >所詮,『つもり』なのですね・・・
    教育も同じです。
    教官は、教えたつもり。学生は理解したつもり。
    でもふたを開けてみたら、何も伝わっていないということが良くあります。

kato へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です