スケトウダラ北部日本海系群のおもひ出

俺が北海道の資源評価に参戦したのは2004年、
期待されていた卓越年級群を未成熟のうちに獲りきっていたことが判明した年である。
水研担当者が出したabcは、業界には到底受け入れられない厳しい値だった。
abcの値を巡って、壮絶な戦いが繰り広げられた。

おれは、前年の評価票に目を通して、この資源は非常にやばいと直感した。
過去の資源崩壊の事例とかなり近いのだ。
産卵場の漁場が縮小しているが、中央部でしか獲れていない。
これは親魚の減少を示唆するものである。
縁辺部の産卵場の久遠は消滅、上の国は半減。
一方、産卵場中心の乙部ではそれなりに獲れている。
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「乙部で獲れているから、この資源は減ってない」というのが沿岸漁業者のより所であった。

しかし、産卵場の縁辺部が消失していくのは資源低下の典型的な症状なのだ。
繁殖を行う際には、ある程度の密度が必要になる。
そこで、資源が減少をしても、産卵場中央での密度は減少しない。
そのかわり、縁辺部での産卵が無くなるのである。
sukex02.png

実際に、ニューファンドランドのコッドでは、崩壊前年まで産卵場の中心では良く獲れた。
みんなが産卵場の中心に取りに行くから、量としてはそれなりに獲れてしまう。
だから、漁獲量だけ見ていると、資源の減少は把握できなかった。
産卵場を対象とする漁業で、資源の状態を把握するには、漁場の分布を見るべきなのである。
当時の資源評価はCPUEに全面的に依存していた。
スケトウダラの資源評価はニューファンドランドのコッドと似たような事をやっており、
資源状態はもっと酷い可能性が高い(ふたを開けてみれば、実際にそうだった)。

この話をした後で、今の資源評価は甘過ぎで、
最悪の場合、数年後にいなくなるかも知れないと力説した。
産卵場の縁辺部が消滅しているというのは漁業者の実感としてあったのだろう。
通夜状態になってしまった。

俺の意見は、ABCLimit(=tac)8千トン。
その前日に、ある漁業者に「生活がぎりぎり成り立つ漁獲量はどの程度か?」ときいたところ、
「8千トンは必要」という返事が返ってきた。
俺的にはこの水準まで、実際の漁獲を減らすべきだと思った。
その上で、次の漁期に産卵場周辺の分布調査を綿密にやるべきだと主張した。
もし、中心部にしかいなければ、禁漁に近い措置を執るべきだし、
漁業者が主張するように沢山いるなら期中改定をすればよい。
獲らなかった魚は後で獲ればよいが、獲った魚は戻せないのである。
スケトウダラのような寿命の長い魚は、獲るのが1年遅れたぐらいでいなくなることはない。

実際にどうなったかというと、ABCLimit 15千トン、ABCTarget12千トンに対し、
TAC 36千トン、実際の漁獲量14.8千トンであった。
せめてABCを8千トンまで減らせればとも思ったが、どうせTACは2万トンぐらいになり、
実質的な漁獲量の抑制には繋がらなかっただろう。

この段階で8千トンまで漁獲量を減らせていたら、資源も漁業も生き残れたと思う。
残念なことに、骨抜きTAC制度のもとで、漁獲量にブレーキをかけるのは無理だった。

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スケトウダラ北部日本海系群のおもひ出 への5件のフィードバック

  1. 業界紙速報 のコメント:

    業界紙ではなく、北海道新聞の15日夕刊に「スケソウ少子化」というコラムがありました(なんというタイミングの良さ!)。リードは「温暖化?産卵場消える」となっているが、内容はなかなか読み応えあるものです。
    そこには、二歳魚まで生き残った匹数を親魚の重量で割る出生率に似た「再生産成功率(RPS)」という物差しを紹介し、RPSが2.5を切ると二匹の親から1.9匹しか育たず少子化が起こるというものです。それを使って、道立中央水産試験場の三宅博哉主任研究員がおもしろいことを見つけたということで、RPSが最高8近くまで上昇した1984~88年の冬季、日本海の表面水温は平年より最大で1度低く推移し、逆にRPSが0.5以下であった2004年の冬は表面水温が8度近くまで上がった海域もあり、全域で平年より1.4度高かった、というもの。
    ただ、スケソウ減少の原因を温暖化に求めるだけではなく、最後に資源回復の秘策はあるのかという問いに対して、三宅研究員と谷津北水研部長は「漁獲を抑制するのが一番」と口を揃えた、と結んでいます。

    ついでといっちゃあなんですが、やはり業界紙ではない日本経済新聞の夕刊に、現在「がんばれマグロ漁業」というコラムが連載されています(18日で連載の⑬)。当初は、漁船漁業のことが詳しく書いてあって、すごいなあと思っていたのですが、最近は養殖一色になってあまりおもしろくない。おもしろくない上に、⑬には「過去数年、二百グラム前後の小型サバは過剰ともいわれるほど豊富で、一キログラム太らせるのに十数キロラムのエサが必要なマグロ養殖の急成長を陰で支えていた。」との記述。それに続けて「ところが、最近水揚げされるサバは『小さくても三百グラム以上。もっぱら加工用に使われる』といい、エサ用には回らない。中国や中南米から冷凍魚を輸入して急場をしのぐ養殖場も増えそうな気配だ。」
    このブログを読んでいれば、いちいち納得できる記事となっています。

  2. 業界紙速報 のコメント:

    さきほど報告しました北海道新聞の記事ですが、三宅研究員と谷津部長が口を揃えておっしゃったのは「漁獲を抑制するのが唯一の道」でした。
    正確さを欠いたので、訂正します。

  3. 匿名甘えヒト のコメント:

    北海道新聞の記事、私も確認しました。
    8割以上の削減が必要って、書いてありました。

    水研と水試が、別々に同じコト言ってるんですね。

    漁業関係(+行政)のお偉いさんには、この事実が伝わっているのかなぁ・・・

  4. ある水産関係者 のコメント:

    2004年8月の釧路の会議では、漁業関係者に日本海系群の実態が「如何に悪い状態にあるか」を示すべく、勝川さんのプレゼンが組み込まれたように感じました。ところが、関係者の頭の中でマダラ資源の枯渇と日本海系群スケトウダラの実態が重ならなかったのか、「ABC=8000トン」は最初から参考値として残すかどうか、程度の議論しかなく、殆どの者が本気で危機感をもって8000トンの数字を受け止めたように見えませんでした。
     そもそもABCを議論するのに「経営が成り立たなくなる」と言った意見が入り込むシステムも問題ですが(TACならまだしも)、研究者の厳しい現実的意見が「狼少年」ぐらいにしか認識されない理由も考える必要があると思います。
     分かり易く言えば、研究者の意見は目安程度で、本気で受け止められていない、もっとストレートに言えば「信用されていない」と言うことでしょう。
     なぜそうなったのか? それは、これまでの研究者の対応が、「事実」ではなく、日本社会のしきたり「ナアナア」を優先してきたから? もちろん、常にwishful thinking に支配されて危機感が持てない国民性にも問題がありますけど・・・

  5. 勝川 のコメント:

    業界紙速報さん
    去年と今年は、たくさん獲れているようだ。
    少ないから、回復計画をしているようだ。
    小サバの輸出が伸びているようだ。
    とか、そういう断片的な情報しかメディアにはでないから、
    全体像は伝わらないでしょうね。

    「漁獲を抑制するのが唯一の道」というのは正論でしょうね。
    環境は我々は変えられないから、それにあわせて漁業を変えるしかない。
    ほとんどの漁業関係者は、
    環境が資源に不適→漁業は悪くない→どうせ減るからいくらとっても良い
    という風に考えるのでこまったものです。

    匿甘さん
    行政は、はじめに予算ありきですから、
    予算の範囲でベストを尽くせばそれでよいと思っているのでしょう。
    もうちょっと頭も使ってほしいものです。

    ある水産関係者さん
    >分かり易く言えば、研究者の意見は目安程度で、
    >本気で受け止められていない、
    >もっとストレートに言えば「信用されていない」と言うことでしょう。

    「資源がどうであろうと、たくさん獲る」というのが既定路線で、
    資源評価がどうだろうと、方向習性をするつもりはないのでしょう。。
    自分たちがやろうとしていることをサポートする結果は大いに使うけれど、
    そうでない結果がでたら、「研究者は信用ならん!」と言って無視するわけです。

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