ようやく水産物のストロンチウムの検査結果が出ました。
東日本大震災について~水産物のストロンチウム測定結果について~
| 種 |
採取日 |
ストロンチウム-90 |
セシウム |
ヨウ素 |
| マイワシ |
4月6日 |
不検出
(検出下限値:0.04) |
8.5 |
4.9 |
イカナゴ
(コウナゴ) |
4月8日 |
不検出
(検出下限値:0.02) |
81 |
598 |
イカナゴ
(コウナゴ) |
4月12日 |
不検出
(検出下限値:0.03) |
66 |
397 |
| カタクチイワシ |
4月14日 |
不検出
(検出下限値:0.04) |
7.9 |
不検出 |
全て不検出なのですが、ストロンチウム汚染がなさそうな魚ばかりを検査しているのだから、手放しでは喜べません。
地図に日付を入れるとこんな感じになります。

これらの場所に汚染水がいつ到達したかを、JAMSTECのシミュレーションでみてみましょう。

犬吠よりも南の黒潮系のエリアには、汚染水はほとんど入れないので、マイワシとカタクチは計測するだけ時間の無駄です(セシウムが若干出ていますが、恐らく大気から落ちてきたものでしょう)。また、コウナゴにしても、4/8は高濃度汚染水がまだきていないし、4/12も汚染水が来るか来ないか、ぎりぎりのタイミングなので、徐々に骨に蓄積されるストロンチウムが出なくても不思議ではありません。汚染水にさらされる前の魚のみを検査しているのだから、ストロンチウムが不検出という結果は当然です。「ストロンチウム不検出」というアリバイを作るための出来レースのような印象を受けます。水産物の安全性を確認するには、汚染水が通過した後の魚を計測すべきなのは言うまでもない話です。なお、サンプルによって、検出限界が異なるのは、そういう物らしいです。
海洋のストロンチウム汚染については4月の早い段階から懸念されていました。実際に海水から、ストロンチウムが検出されたのが4/18なのに、水産庁が日本分析センターに検査を依頼したのが5/25です。そして、6/27に結果発表となったわけです。5/25になって、ようやく検査の依頼をするというのは、動きが遅すぎます。5月下旬にサンプルを送るのであれば、ストロンチウムが蓄積されている可能性がある福島周辺の水産物を測定すべきです。しかし、水産庁が選んだのは4月上旬に獲られた千葉と茨城の魚ばかり。なんで、こういう魚を計測したのか、水産庁に問い合わせたところ、「すぐにストロンチウムを計れという指令が上から来た。検査に十分な量が手元にあったのは、これらのサンプルだけなので、仕方がなかった」という趣旨の説明をされました。次の2点で残念です。
- 上から指令が降りてこなければ、ストロンチウムを計るつもりが無かった点
- 計測指令に対して、ストロンチウムが出なさそうな手持ちのサンプルで対応した点
電話したついでに、現在、ストロンチウムを計測中の水産物はあるかを問い合わせたのですが、「現在調査中のものはない」とのことでした。水産物のストロン チウムの情報は、今後1ヶ月は期待できません。その先の調査予定についても問い合わせたのですが、未定とのことでした。どうやら、汚染水が通過するまえの4つのサンプルのみで、ストロンチウムの計測は終わりになりそうな雰囲気です。
何をやるべきか?
俺が国に要求したいのは次の2点
1)福島原発周辺の褐藻のストロンチウム/セシウムの比を調べる
放射線防護の観点から、抑えておくべき最重要な情報は、放射性セシウムと放射性ストロンチウムの比です。汚染源に近い場所の、セシウムとストロンチウムの両方を蓄積する生物を計測するのが合理的です。福島原発に近い場所の褐藻(ワカメ・ひじき)をつかうのが良いと思います。福島県で漁業は行われていないけれども、県の調査漁獲はあるわけですから、サンプルの依頼は可能なはずです。
2)セシウムが暫定基準を超えたサンプルは冷凍保存をして、後日ストロンチウムも必ず調べる
セシウムが残的基準値を超えたサンプルは、ストロンチウムの汚染も懸念されます。これらのサンプルを冷凍保管しておいて、ストロンチウム濃度が想定の範囲に収まっているかどうかを確認すべきです。国内でストロンチウムの計測ができ る機関は限られており、どこも手一杯です。私も個人的に問い合わせたことがあるのですが、「国からの依頼で手一杯で年内は無理」との事でした。日本全体で みても、貴重なストロンチウム測定の機会を、計る必要もないようなサンプルの検査で費やすことは許されません。
水産庁の調査は、国民を放射能から守るのが目的ではなく、低い値を出して「問題はない」と主張するのが目的のようです。こういう姿勢で検査をしている限り、消費者の信頼は得られないでしょう。ちょっとわかる人が見れば、ストロンチウムが検出されそうな魚を検査してないことは、一目瞭然です。「ストロンチウムの汚染を隠すために、福島近辺の魚を避けているのではないか」と、かえって不安を煽りかねません。税金を使って、国民の健康に関わる検査をしているのだから、もっと真摯に取り組んで欲しいと思います。
「国はストロンチウムの検査をきちんとやるべきだ」と思われる方は、水産庁に直接意見を伝えることもできます(連絡先はこのページの一番下)。もちろん、怒ったり、怒鳴ったりは、しないでくださいね。「自分は心配だからストロンチウムをちゃんと測って欲しい」ということを、冷静に伝えれば十分です。国民の多くは水産物のストロンチウム汚染の心配をしており、心配を払拭するには徹底した調査しかないということを、水産庁の中の人にも理解してもらいたいです。