漁業者が減っても、消費者は困らない

漁業関係者の多くは、「水産物の安定供給のために、赤字の漁業者を救済せよ」と主張している。

科学的にはじき出された許容量を上回る漁獲を、国が認める不可思議。当然、「乱獲を公認している」との批判があるが、水産庁は「TACをABCに沿って激減させると、漁業者は操業できず、倒産する。すると、水産物の安定供給が困難になる」という。
http://www.hokkaido-np.co.jp/cont/suisan-oukoku/14119.html

これ、全くの嘘。むしろ赤字の漁業者を維持することは、水産物の安定供給にとって、マイナスでしかない。

まず、日本の漁業者は余っている。足りないのは魚だ。横浜国立大学の馬奈木准教授の試算によると、現状の漁獲量を維持するのに必要な漁業の規模は今の15%。要するに85%も過剰な漁船を保持しているのである。

漁業者多すぎ、魚がいない。というのは世界的に共通している。1989年にFAOは世界の漁獲能力は、現状の漁獲を維持するために必要な130%の水準であると推定した。また、Garcia and Newton (1997)は、世界の漁船規模を現状の53%に削減すべきであると試算をしている。世界中で、漁船も、漁業者も余りまくりなのだ。不足しているのは、魚や漁獲枠である。「日本近海に魚があふれるほどいるけれど、漁業者がいない」という事態は、まずあり得ない。もし、そのあり得ない事態になれば、暇をもてあましている漁船を海外からチャーターして、水揚げをさせれば良いのである。

たとえば、NZでは、ロシアや韓国漁船をチャーターして、自国で操業・水揚げをさせている。海外のチャーターは、日本漁船よりも圧倒的に安価である。韓国船は非常にマナーが悪いらしい。NZの操業違反の8割は韓国漁船だとか。一方、ロシア船は、操業規則も守り、魚の質も良いとのこと。日本の漁業者が絶滅をしても、ロシア船をチャーターすれば、水産物の安定供給は可能だし、その方が、魚の値段は下がって、質は上がる可能性が高い。

漁業者減ると、全漁連や、水産庁は、とても困る。我々、水産学の研究者も、存亡の危機だ。しかし、漁業者が減っても、消費者への悪影響はほとんど無い。それどころか、メリットが多いだろう。自国の漁船を維持するより、外国漁船を単年契約で利用する方が、資源が減少したときに、禁漁等の思い切った措置がとりやすくなる。結果として、資源の持続性が保たれ、水産物の安定供給に寄与する。繰り返すが、水産物安定供給の生命線は、漁獲努力量ではなく、資源なのだ。
安定供給を口実に、現状の過剰な漁業者による、過剰な漁獲を正当化するロジックがいかにデタラメかは自明である。水産庁だけでなく、組合も、漁業者も、御用学者も、みんな言っている。安定供給を口実に、業並みの手厚い保護を勝ち取ろうとしているが、実に浅はかである。漁業者が多すぎるから魚が減るという当たり前の事実に、納税者は遅かれ早かれ、気づくだろう。補助金依存度を高めたら最後、補助金なしには存続できない産業になってしまう。そして、補助金はいつまでも出せる国家財政ではない。補助金おねだり作戦のもたらす結果は、漁業の延命ではなく、確実な破滅なのだ。

日本漁業の生き残る路は、①生産性を高めて経済的に自立すること、②日本の漁業者に任せた方が、資源の持続的利用に寄与すると示すこと、の2点であろう。実際には、全く逆の方向に進んでいる。自給率ナイナイ詐欺で、非生産的な現状を肯定する。そして、「零細な漁民がいるから、資源管理はできません」などと開き直るのである。今のままでは、消費者から見捨てられるのは時間の問題だろう。俺としても、沿岸漁業が少しでも多く残ればよいと思っているが、このままではどこまでも淘汰が進むだろう。組合も、行政も、研究者も、漁業が自立した持続的な産業として発展していくのを助けるために全力を尽くすべきである。そのことが、長い目で見れば、漁業に寄生する我々が存続する唯一の道なのだ。

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漁業者が減っても、消費者は困らない への5件のフィードバック

  1. 沿岸漁業の一漁師 のコメント:

    昨年の一斉休漁で『国民が普通に生活するには関係ない仕事』ということが露呈していますよw。迷惑をかけたのは本来、迷惑をかけてはいけない方々ばかりwww。
    全漁連も事前に『迷惑かけませんから』なんて言っていますしw。
    おまけに『荷が動かない』曜日ですしw。
    『従事者の待遇改善』も含めて日曜休漁の方が主張を通しやすいのにねw。

    >農業並みに補助金に依存してしまった漁業
    加工事業や直販事業でも漁協事業や部会等で集団化すれば3分の2の助成がありますね。
    集まるのはニギリやチキンばかりですね。

    零細漁業者を残すメリットは
    ○政治家の票の確保 
    ・国会議員は地域にもよりますが、市町村議会議員クラスは農水族、土建族含め確実に影響があるでしょうね。
    ○地方公務員の組織維持 
    ・強い漁師は基本、自力で問題解決するので指導部署は不要になりますよねw。 
    ・プライドがあって信念を曲げない方々でしょうから、過度に御役人様にヘーコラしたり飲ませ食わせしないでしょうし、間違っていることは『間違っている』と指摘するでしょうから不愉快でしょうしw。
    ○全漁連や都道府県の漁連の組織維持
    ・よほどの離島や遠隔地で無い限り、強い漁師には、基本的に無用w。

  2. ピンバック: たま子の日記

  3. 元漁師 のコメント:

    >日本の漁業者は余っている。足りないのは魚だ。

    >漁業者が減っても、消費者への悪影響はほとんど無い。それどころか、メリットが多いだろう。

    大賛成(笑)!

    現状が続くのであれば、漁業なんか、漁師なぞみんな全滅しちまえ!
    というのが本音です。

    漁業が衰退して、技術の継承が途絶えたところで、
    そんなもの、針と糸さえあれば獲れないことはない。

    むしろ、原始的な方法でこそ、いや原始的な方法でしか
    魚の獲りすぎを「抑制」できないのが今の能無し漁師。

    GPSも魚探もいらん。あんなものあるから獲りすぎる(笑)

  4. とんとん のコメント:

    勝川先生のブログは素人の私たちにも非常に判りやすく 興味深いです。
    中学生の子供も こちらをきっかけに漁業や世のしくみに興味を持ったようです。
    ありがとうございます。

  5. 勝川 のコメント:

    沿岸漁業の一漁師さん

    >おまけに『荷が動かない』曜日ですしw。
    >『従事者の待遇改善』も含めて日曜休漁の方が主張を通しやすいのにねw。

    イカ釣りの一斉休漁も、漁獲効率の悪い満月の夜でしたね。

    >加工事業や直販事業でも漁協事業や部会等で
    集団化すれば3分の2の助成がありますね。

    これもすごい助成率ですね。
    ふたを開けてみたらすごそうだ。

    元漁師さん

    >現状が続くのであれば、漁業なんか、漁師なぞみんな全滅しちまえ!
    >というのが本音です。

    残念ながら、それに近い状況に向かっていますね

    >むしろ、原始的な方法でこそ、いや原始的な方法でしか
    >魚の獲りすぎを「抑制」できないのが今の能無し漁師。
    >GPSも魚探もいらん。あんなものあるから獲りすぎる(笑)

    魚探もそうだけど、ソナーはすごいですよ。
    海の中が丸見えです。
    漁船はこれだけ進歩しても、漁業を規制するルールが
    江戸時代(笑)から何ら進歩していないのだから、乱獲になるのは当然です。

    とんとん さん

    >勝川先生のブログは素人の私たちにも非常に判りやすく 興味深いです。
    >中学生の子供も こちらをきっかけに漁業や世のしくみに興味を持ったようです。
    >ありがとうございます。

    日本漁業が衰退している構図は非常に単純なんです。

    教科書に載っていることが真実の全てではなく、
    世の中にはいろいろなものの見方があるということを知るのは、
    重要なことだと思います。

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