世界の漁業生産が、過去最高水準で安定的に推移しているのは、各種統計から明らかである。ただ、漁獲量の統計のみでは、世界の漁業の現状を把握するのは難しいだろう。近年の世界漁業の発展は、量よりも質の向上によるところが大きい。
漁業を取り巻く状況が近年大きく変わってきた。50年前の水産物は、地産地消が基本であった。漁獲物は、比較的短期間のうちに、水揚げ地周辺で消費されてきた。冷凍技術と輸送技術の発達により、水産物が世界中を移動する時代になった。
世界の水産物の貿易量と金額を次の図に示した。漁業生産が頭打ちになった90年代以降も、水産物の貿易は順調に増加していることから、地産地消から、地産他消へのシフトが進んでいることがわかる。水産物の貿易の重量はコンスタントに増加しているが、値段はそれ以上に増加している。
重量ベースで見ても、金額ベースで見ても、水産物の貿易は伸びているが、特に金額ベースでの伸びが著しい。これは輸出単価の上昇を意味する。水産物の輸出平均単価を図にすると次のようになる。
長期的な上昇傾向にあることがわかる。近年、日本国内では魚の値段が低迷しているが、世界市場では2000年以降、急速に単価が上がっているのだ。90年代以前であれば、日本の価格の低下は、そのまま世界市場の価格の低下につながったが、現在はそうではない。日本が買わなくても、世界の魚の値段は上がっているのである。水産物国際市場は、急激な日本離れが進んでいるのだ。
- Newer: 世界漁業は成長産業 その3
- Older: 世界漁業は成長産業 その1
Comments:3
- SI postdoc 09-08-11 (火) 13:31
-
いつも楽しみに読ませていただいております.
ご存知かとは思いますが.つい最近関連する興味深い論文が出ております:
http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/325/5940/578
やはり,このような(近年欧米では当たり前に行われている)きちっとした基礎科学と漁業のつながりが,あまりにも弱いのが日本の本質的な問題点なのではと,門外漢ながら思います(漁業に限らずですが). - kato 09-08-12 (水) 11:02
-
金額ベースの統計は社会情勢の影響を受けるのでなかなか解釈が難しく、生産量のように単純比較は無理があるのでは?と思うのです。例えば国内の価格動向などは消費者物価指数のようなもので補正したりしますよね。
実際価格は上昇傾向なのだと思いますが、このグラフも米ドルがベースになっていますので、もしかしたら急激なグラフの上昇には為替のマジックがあるようにも思えます。
http://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/chart/?code=USDEUR=X&ct=z&t=ay&q=c&l=off&z=m&p=m65,m130&a=さかなやオヤジさん。
コメントのお返事ありがとうございました(とても参考になりました)。
お礼が遅れ大変失礼いたしました。 - 勝川 09-08-13 (木) 10:34
-
SI postdocさん
初めまして。
Wormらの新しい論文はもちろん読みましたよ。
2048年漁業消滅説と比べると、
共著者も内容もバランスがとれたものになっていると思いました。
それにしても、図1Bでは、日本の周りが見事に空白であり、
研究者の一人として恥ずかしく思います。基礎研究の充実もさることながら、研究者の基本的なスタンスが違います。
いま、流行のレジームシフトも、低水準のサバやイワシを獲りまくる巻網漁業者を
擁護するために研究をしているような印象です。
「親を残しても子供が残らないから、いくら獲っても良い」というわけです。
Trackbacks:0
- Trackback URL for this entry
- http://katukawa.com/wp-trackback.php?p=1816
- Listed below are links to weblogs that reference
- 世界漁業は成長産業 その2 from 勝川俊雄公式サイト