過剰な漁獲枠は沿岸漁業のためにならない
スケトウダラ日本海北部系群は、90年代から卓越が発生せずに、資源がじりじりと減少していた。そのような状況で1998年に待望の卓越年級群が発生した。1998年級の資源量を大幅に過大推定した結果、過剰な漁獲枠が設定されていた。沖底は広範囲を自由に操業できるので、卓越年級群であった1998年級を2歳、3歳といった未成熟な段階でほぼ獲り切ってしまった。ふたを開けてみれば、心待ちにしていた卓越年級群が沿岸漁業の漁場である産卵場に戻ってくることは無かったのである。減少期に生まれた唯一の卓越年級群を未成熟のうちに獲り切ったことで、この資源は壊滅的に減少してしまった。
詳しい経緯は過去ログをみてください
https://katukawa.com/category/study/species/suke/page/3
https://katukawa.com/category/study/species/suke/page/4
この失敗から学ぶべき点は2つある。
1)不確実な段階で漁獲枠を増やすのは危険
現在の漁船は、沿岸も沖合もすこぶる性能がよい。多少、魚が多くても、獲ろうと思えば、獲り切れてしまうのだ。資源評価が不確実な段階で、スケトウダラの漁獲枠を増やすと、資源の持続性の観点から賛成できない。研究者は、魚が獲れるからといって、すぐに漁獲枠を増やさなかった。日本海北部系群を減らしてしまった苦い経験から、慎重にならざるを得ないのである。
2)過剰な漁獲枠設定によって、沿岸の既得権が失われる
漁獲枠が過剰だと、沿岸はTACを消化できない。その一方で、沖底は未成魚を獲ってつじつまを合わせることができる。沖底は過剰な漁獲枠を未成魚で埋めたが、沿岸は過剰な漁獲枠を消化できなかった。結果として、沿岸の未消化枠が取り上げられて、沖底に配分されてしまった。沖底と沿岸の漁獲枠の比率は、昔は5:5だったのが、現在は6:4ぐらいになっている。漁獲枠を増やせば、沿岸漁業の既得権を沖底に譲り渡す結果になるのである。
ただ、こうなるのは、水産庁の漁獲枠配分方法に問題がある。この点については以前から指摘をしてきた。スケトウダラ日本海北部系群の漁獲枠を沿岸が消化できなかった理由は、漁獲枠が過剰だったからである。資源評価を下方修正した後も、水産庁がABCを無視して、過剰な漁獲枠を設定し続けている。結果として、沿岸は漁獲枠を消化できずに、既得権を失い続けている。資源量に対して適切な漁獲枠を設定し、それでも消化できなかったのなら、未消化枠の有効利用について議論をしても良いだろう。明らかに過剰に設定された枠を消化できなかったからといって、未来永劫その権利を取り上げるのは、おかしな話である。乱獲をした漁業者の枠が増えて、乱獲しなかった(できなかった)漁業者の枠が減るなどという話は聞いたことがない。こういうおかしな実績主義によって、「与えられた漁獲枠はなんとしても消化しないといけない」という強迫観念を漁業者に植え付けている。
TAC制度の問題点
水産庁は、持続性を無視した漁獲枠を設定しておきながら、未消化枠は取り上げる。漁業者は既得権を守るために過剰な枠を埋めねばならず、結果として乱獲を推進している状態である。改善案
未消化枠を取り上げるのはやめるべき。豊富な資源に限り、未消化漁獲枠の一部を翌年に持ち越せるような仕組みを導入する。たとえば、ニュージーランドでは、年間漁獲枠の10%を上限として、未消化の漁獲枠を翌年に持ち越すことができる。そういう仕組みがあれば、無理に獲らなくなるだろうし、漁獲が遅れれば、それだけ資源にも漁業にも良い影響がある。
沿岸が無理して獲らなくても良いような、制度設計を考える必要がありますね。


