サバ時代到来明るく、中央水産研究所報告
http://www.news-kushiro.jp/news/20070807/200708073.html
サバ時代到来ですか。マジですか。釧路新聞は凄いなぁ。
この記事の元になったのは、
平成19年度第1回太平洋イワシ・アジ・サバ等長期漁海況予報と思われます。
http://nrifs.fra.affrc.go.jp/yohou/2007_1/5.pdfhttp://nrifs.fra.affrc.go.jp/yohou/2007_1/5.pdf
では、中を見てみましょう。
1. 資源状態
(1)マサバ
資源量は1990 年以降依然として低い水準にあるが、加入量水準の高い2004 年級群の発生により資源量は増加傾向にある。2003 年級群(4 歳魚)以上の残存資源量は少ない。
2004 年級群(3 歳魚)現在の残存資源尾数は2.6億尾と、3 歳魚としては近年にない高い水準である。
2005 年級群(2 歳魚)加入量水準の低い2001、2003 年級群並みの水準と判断される。
2006 年級群(1 歳魚)2005 年級群をさらに下回る水準と評価されている。
2007 年級群(0 歳魚)は、黒潮-親潮移行域中層トロール幼魚調査(中央水研・北水研)による加入量指数が12.1 と、2004、2005 年並みの高い値であった。東北水研による北西太平洋中層トロール資源調査(サンマ漁期前調査)から推定される推定資源尾数は105 億尾(暫定値)と、2004 年級群(64 億尾)を上回った。茨城県の船曳網、千葉県の定置網など沿岸域でも昨年、一昨年よりマサバ0 歳魚の分布が多くみられているほか、釧路水試による流し網調査においても分布が確認されている。これらのことから2007 年級群は2005、2006 年級群より加入量水準は高いと考えられる。しかし発生後間もない現時点での調査結果に基づく評価は極めて不確実である。
以上のことから本予測期間は2004 年級群(3 歳魚)が主体となる。これに2005 年級群(2 歳魚)、2006年級群(1 歳魚)が混じるが少ない。期後半に2007 年級群(0 歳魚)が漁獲され、漁獲の主体になる可能性もあるが、0 歳魚の加入量の見積もりは非常に不確実である。マサバ全体としては、多かった前年を下回ると考えられる。
(4)資源管理
マサバの親魚量は2004 年級群の高い加入により増加傾向にある。2007 年産卵期は2004 年級群が3 歳魚として活発に産卵した。産卵量は2007 年1~6 月でサバ類で312 兆粒、マサバのみでも251 兆粒と大きく増加、1982 年以来15 年ぶりに200 兆粒を超えた。しかし2005、2006 年級群の加入量水準は低く、親魚量は今後減少すると考えられる。続く2007 年級群は、現段階では不確実であるが、比較的豊度の高い年級であると期待され、2007 年級群を保護することにより親魚量の減少を一時的なものにとどめ、更なる増加につなげることができると期待される。現在マサバ太平洋系群の親魚量の回復を目指した資源回復計画が実行されている。親魚量の増加傾向を維持しマサバ資源の回復を図るため、若齢魚の保護を継続することが肝要である。
以上をまとめてみると、こんな感じ。
- 主力の3歳は、約2.6億尾と推定されている。
- 0歳は、今の段階ではまだ何とも言えないが、3歳の1.5倍ぐらいいるようである。
- 1歳、2歳、4歳以上は殆ど居ない。
- 0歳の獲れ方次第だけど、漁獲量は前年を下回るんじゃないの?
- 07年級群を産卵まで残さないと、更なる増加には繋がらないだろう
原文を読むと「マサバ時代到来!!」というトーンでは無いことがわかる。
3歳の近年にない高い水準(2.6億尾)というのは、具体的にどの程度かというと、こんな感じ。

90年代に入って、資源量が低迷してからであれば例外的に多いのだが、
70年代、80年代と比べると依然として低い水準である。
さらに、3歳の上も下も居ないことに注意が必要だ。
年齢組成を見るとこんな感じになる。

3歳はかろうじて見えているが、のこりは0歳しかいない。
0歳は、70年代の高水準期には適わないものの、歴史的に見ても高い水準である。
だからといって安心することは出来ない。
この予測値と同程度の加入があった96年級群は、未成熟のうちにほぼ獲り尽くされてしまった。
つまり、現在の漁獲能力であれば、獲り尽くせる水準なのである。
また、「発生後間もない現時点での調査結果に基づく評価は極めて不確実である」との記述もある。
では、実際にどの程度のズレがあるかを見てみよう。
マサバ太平洋系群の資源評価票(平成18年版)の25ページに次の2つの表がある。
- 補足表4-1.太平洋における浮魚類の資源量調査の概要
- 補足表4-2.各調査による資源量指標値
このなかの4番(東北水研 6~7月)の調査が0歳魚の推定に用いられたのだろう。
(ただ、2004年が101億尾となっているので、平成19漁海況予報の64億尾という記述とはずれるので、要確認)
補足表4-2に実際の値があるので、その後の情報から推定された加入量と比較してみよう。

トレンドとしては良く追えているけれど、絶対量はあまりあてにならないことがわかる。
全体的に過大推定の傾向がある。
この東北水研の調査は、おそらく「サンマの資源量を調べるついでに獲れたサバの数も数えてみました」というものだろう。
その年のマサバの分布域がサンマとかぶるかどうかに大きく影響されてしまう。
そういう意味で、精度はあまり期待できない。参考程度につかうべき値だ。
ただ、いろんな場所で0歳のサバが捕れているのは事実であり、この年級群がそれなりに居ることは間違いない。
だからといって、「サバ時代到来明るく」と言えるような状況ではない。
04、07と卓越年級群が発生したことで、最低水準からは脱しつつあるが、
04年生まれはもってあと1~2年。その間に07年生まれをつぶしてしまえば、そこでアウトだ。
三陸沖で、「サバが獲れて獲れて困っちゃう」とか良いながら、ガンガン獲っているようだが、
そういう獲り方をしても値段は付かないし、資源の回復の芽を摘むだけである。
この漁海況予報のなかで、最も気になる記述はこれ。
※付記
東北海区サバ長期漁況予報の太平洋イワシ・アジ・サバ等長期漁海況予報への統合のお知らせ
これまで三陸沖でのサバ類を対象とした漁業に対応するため、毎年10 月始めに東北海区サバ長期漁況予報を出して参りましたが、近年ではサバ資源の分布回遊範囲の縮小と対象魚群の若齢化によって漁期が早まり、10 月には三陸沖漁場が終盤となる状況になっています。
そのため、東北海区のサバの漁況予報は、現在、太平洋全体のサバ類の漁況予報として中央水研で出される太平洋イワシ・アジ・サバ等長期漁海況予報の7 月の予報に統合することが適切であることから、今後は当該予報に東北海区におけるサバ類の漁況予報を統合することとして整理し、予報精度を維持・向上して参ります。従いまして本年10 月から東北海区サバ長期漁況予報は出されなくなりますのでご承知ください。
日本サバが美味しくなるのは、秋から冬。特に三陸沖の脂ののったサバは最高だ。
現在は、美味しくなるまえに、漁業が終わってしまうというお寒い現状なのだ。
本当にもったいない話である。
美味しい日本のサバが食卓に並ばない理由はここにある。