ウナギの乱食にブレーキをかけられるのは誰か?

日本では、ウナギを守るための実効性を持った取り組みは現在進行形で行われていない。非持続的な消費は今も継続している。ウナギが減ったのは誰の責任かというと、獲った漁業者も、売った小売りも、食べた消費者も、非持続的な消費システムの一員である以上、責任はあるだろう。規制すべき立場にいた水産庁も、警鐘を鳴らすべき立場にいた我々専門家も、無責任の誹りを免れない。俺自身も、これまで何十年もウナギを食べてきたのだから、他人事のように非難できる立場では無い。当事者として、自らの責任を認めた上で、未来につながる行動をとらないといけない。

ウナギの資源回復を誰が主導でやるべきだろうか。もちろん、皆が出来ることをやるべきである。

  • 行政は、法整備をして、非持続的な漁獲を抑制すべきである
  • 漁業者は、非持続的な漁獲を控えるべきである
  • 小売りは、非持続的な漁業で獲られた魚を扱うべきでは無い
  • 消費者が、非持続的な漁業で獲られた魚を消費すべきではない。

残念ながら、だれも具体的な行動を起こしていない。動きだす気配すらない。水産庁は資源管理をしない口実を並べるだけで、何もしてこなかったし、今後も何もしないだろう。漁業者は、漁獲量が減ったからといって、漁期を延ばしている。小売りは、売れれば何でも売るし、消費者は無関心。環境省が絶滅危惧種に指定をしたのが唯一の救いだが、これとて法的強制力を伴うものではない。状況は絶望的だ。

海外の漁業国は、どうやって規制を導入したのか?

日本国内をみていると漁業に救いは無いのだけど、海外に目を向けてみると、全く違う光景が開けている。ノルウェーやニュージーランドのような漁業管理をちゃんとやっている国は、水産資源が回復していて、漁獲量も安定している。こういった国は、どうやって最初に資源管理を始めたのだろうか。ここに日本でも資源管理を始めるためのヒントがありそうだ。ということで、俺は、かなり前から、資源管理先進国を訪問して、資源管理をどうやって始めたのかを聞き取り調査してきた。

2007年 ノルウェー
2008年 オーストラリア、ニュージーランド
2009年 ノルウェー、ニュージーランド(チャタム島)
2010年 米国(シアトル、アラスカ、ベーリング海)

世界を旅してわかったことは、「行政や漁業者が主導で資源管理を始めた国は無い」ということだ。漁業者は魚を獲るのが仕事だし、現状でも生活が厳しいのに、漁獲規制など賛成するはずが無い(実は、漁獲規制がないから、生活が厳しいのだけど)。行政は、業界が反対していて、調整が難しいことを、自ら進んでやるはずが無い。これは日本に限った話では無く、ノルウェーやニュージーランドでも同じ状況だったのである。

ニュージーランドで、漁業改革を指揮したクラウザーさんに当時の話を聞いた。漁獲規制に対する漁業者の抵抗はひどかったらしい。説明会を開けば、罵声を飛ばされたり、トマトを投げつけられたり、さんざんだったとのこと。ではどうして、漁獲規制が導入できたかというと、国民世論が乱獲を許さなかったからだ。

ノルウェーでも、ニュージーランドでも、環境保護団体が強い。彼らが非持続的な漁業の問題点を指摘した結果、乱獲に反対をする国民世論が高まり、漁獲規制が導入されたのである。選挙では、与党も野党も、漁業管理を公約にして、選挙を戦い、意欲のある政治家が中心となって、政治主導で資源管理を始めたのである。

漁獲規制を始めたら、大型の魚がコンスタントに捕れるようになり、漁業が儲かるようになった。すると、5年もしないうちに、漁業者は資源管理を支持するようになった。2008年に俺がヒアリングしたところ、漁業者のほとんどが資源管理を支持していた。自然保護団体のおかげで、漁業が儲かるようになったというのは、なかなかおもしろい現象である。

情報を与えられない日本の消費者

日本国内について考えてみると、水産庁や漁業者は資源の減少を理解した上で、現状を維持しようとしている。つまり確信犯である。彼らに、漁獲が非持続的であることを指摘しても、開き直って終わりである。一方、消費者の「魚を食べ続けられるか」という関心はある。少なくとも、あまり魚を食べないニュージーランド人よりは、格段に高いはずだ。そこで、試しに自分で消費者教育をやることにした。生協主催の講演会で話をしたり、栄養と料理という雑誌に水産資源の問題を寄稿したり、手当たり次第にいろんなことをやってみた。それなりに意識の高い人が対象ということもあるが、ちゃんと話をすれば、理解をしてくれる人がほとんどだった。彼らは異口同音に「こんな話は聞いたことがない」「日本でもちゃんとした漁獲規制をしてほしい」という。消費者に、興味が無いのではなく、情報を与えられていなかったのである。

非持続的な水産物消費システムを変える可能性をもっているのは、行政や業界では無く、消費者だと思う。日本の魚食を持続的にしていこうと思ったら、「なぜ、日本では非持続的な消費についての適切な情報が消費者に流れないのか」を分析した上で、そこに風穴を開けていく必要があるだろう。

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ウナギをどう看取るか?

某生協から、「ウナギの消費について、俺の意見をききたい」という依頼があった。ウナギを取り扱うかどうかで、内部で議論をしたが、話がまとまらなかったので、俺の意見を参考にしたいというのだ。そのときに話した内容を簡単にまとめてみた。ウナギを食べるかどうかは、なかなか難しい問題だ。こうすべきという正解があるわけではない。そのことを踏まえた上で、一つの意見として読んでもらえれば幸いだ。

ウナギ問題を考える出発点として、日本のウナギ消費がどのような状態であったかを、把握する必要がある。ウナギについては、こちらのサイトが詳しいので、まず読んでほしい。このサイトに目を通したことを前提で、話を進める。

http://nationalgeographic.jp/nng/article/20120710/315508/

我々のウナギ消費の歴史を振り返るとこんな感じ

  • 60年台から、ニホンウナギの漁獲量は減少の一途をたどっていた
  • 今に至るまで、資源保護のための措置はとられていない。
  • 国産が減れば、北米+欧州から輸入
  • 資源は減っているのに、供給量は増えて、値段が下がるという異常な状態
  • 北米・欧州の資源が激減し、ほぼ禁漁に
  • 自国の資源のみに依存せざるを得なくなる
  • 価格の高騰→漁獲圧が強まる→4年連続でほぼシラスが獲れない状況

ウナギ漁業の現状

  • 減少要因が特定できない(河川開発とシラス漁の複合要因)
  • 国内の漁獲量すら把握できていない
  • 密漁の蔓延化
  • 中国・台湾との共同管理の難しさ

結論からいうと、ウナギは、もう詰んでいる。中国や台湾にも生息する広域分布種であり、共同して管理をする必要があるのだが、中国・台湾とは、会話のテーブルを準備したというような段階。実務レベルの協議が出来る状態にはほど遠い。日本単独で見たとしても、未だにシラスウナギの漁獲量すら把握できていない状況である(現在の漁獲量は報告された量を合計しただけで、シラスウナギの漁獲は、報告されないケースがかなりある)。日中台が協力して、これから禁漁したとしても資源が回復するかは微妙な情勢ではあるが、禁漁に近い措置を獲れる可能性はほぼ無い。

10年前なら、ニホンウナギを持続的に利用するという選択肢はあったかもしれないが、もうそういう段階ではない。「ニホンウナギの最後をどう看取るか」という段階である。今、我々がやるべきこと(できること)は、ウナギを反面教師にして、第二・第三のウナギを無くすことだ。水産物を持続的に消費するシステムを確立して、将来の水産物の消滅を食い止めることが重要である。

海の幸を少しでも良い状態で残していく。そのために何が出来るかをしっかりと考え、行動すること。それが、ウナギを食べ尽くしてしまった我々の、未来の世代に対する責任だと思う。

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日本のウナギ根絶作戦が、ついに最終段階

ジャワうなぎ、日本へ 「世界最後の稚魚市場」から 東アジアでの激減背景に  (2013年04月20日)
東アジアでウナギ稚魚の不漁が続く中、ウナギ養殖のインダスト(熊本県玉名市)が、「ジャワうなぎ」の日本輸出を目指して奮闘している。西ジャワで養殖を始めて7年目。成果は実りつつあるが、日本人の口に合うウナギの育成が今後の課題だ。
中川勝也社長はインドネシアを「世界で最後の稚魚市場」と表現する。同社によると、世界で確認されているウナギの仲間18種のうち、7種が生息するインドネシア近海がウナギ発祥の地だと考えられており、稚魚は豊富だという。
ウナギの漁獲量が激減する日本での需要は大きい。日本のコンビニや流通業者から「早く届けてほしい」との要望が日に日に強くなっているという。
http://www.jakartashimbun.com/free/detail/10643.html

1960年代から、日本国内のシラスウナギ漁獲量が減少した。日本は、資源回復の措置をとることなく、1990年代から、海外のシラスウナギを輸入する体制に移行した。持続性を無視した消費で、北米とヨーロッパのウナギを絶滅寸前まで食べ尽くし、自国のウナギ資源も絶滅危惧種になってしまった。

東アジア、ヨーロッパ、北米のウナギを食べ尽くした日本市場が、「世界で最後の稚魚市場」に食指をのばしている。もし、インドネシアのシラスウナギを大規模に利用するための準備が整ったら、このウナギ資源も、ニホンウナギ、アメリカウナギ、ヨーロッパウナギと同じ運命を辿るだろう。


 ニホンウナギの資源状態についてより引用

魚が無くなるまで食べ尽くし、余所の産地に移る。それを繰り返して、最後のシラスウナギの産地を潰そうとしている。日本人がやっていることはイナゴと同レベル。

「売れるものは、何でも集めてくる」商社と、「いま食えればそれで良い」という消費者。どちらも持続性なんて、これっぽっちも考えていない。無責任で恥知らずな乱消費をしておきながら、なにが「魚食文化」だ。へそが茶を沸かすよ。

持続性を無視した消費を続ければ、いずれは自分たちが食べるものがなくなるということに、日本人は気づかないといけない。

われわれが、いま考えるべきことは、「どうやって、世界最後のウナギ資源を開発するか」ではなく、「乱食を止めて、持続的な水産物消費に移行するには、どうしたらよいか」である。ウナギを反面教師にして、マグロを含む他の水産物を食べ尽くさないように、責任ある水産物消費へと舵を切らなければならない。

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漁業資源と国境を守るために、日本は何をすべきなのか

1つ前の記事で、自国の乱獲を棚に上げて、中国を非難する日本のテレビ番組を批判しました。日本は過去に乱獲をしていたから、中国の乱獲を容認すべきという意図ではありません。「日本と中国のどちらが正しいか」という話ではなく、「どちらも正しくない」のです。日本の乱獲も、中国の乱獲も、出来るだけ早く止めるべきです。ただ、日本がまず取り組むべきは、国内問題である自国の資源管理であり、それをしない限り、中国との関係も変えられないと思うのです。

乱獲にはいくつか種類があって、それぞれ対処法や日本漁業への影響が異なっています。ざっくりと、以下の4つに分類して、それぞれの傾向と対策をまとめてみました。

1.日本の過去の乱獲

日本の過去の乱獲については、当時は乱獲を規制するルールがなかったし、1970年代までは、日本の動物性タンパク質の供給が足りていなかったのだから、当時としては仕方がなかった面もあるだろう。いまさら乱獲してきた過去を変えることはできない。乱獲によって多くの漁場を破壊してきたという事実を認めた上で、そこから学ぶことしかないのである。

2.日本が自国のEEZで現在も行っている乱獲

日本が排他的経済水域(EEZ)の水産資源の排他的利用権を得ているのは、国連海洋法条約のおかげです。日本は国連海洋法条約に批准することで、沿岸から中国船・韓国船を追い出して、自国のEEZで排他的に漁業を行っているのです。国連海洋法条約は、持続的管理の見返りとして、排他的利用権を認めています。「海洋資源は人類共有の財産なのだけど、管理人が必要なので、沿岸国が持続的に管理するなら、排他的に利用して良いよ」ということです。

日本は、EEZを排他的に利用しているにも関わらず、自国の乱獲は放置したままです。権利を享受しながら、義務を怠っているのです。日本政府は自国漁船の乱獲を取り締まる気などありません。「漁業経営に重要だから」とか、「安定供給も必要だ」とか、訳がわからない理由を並べて、乱獲を放置してきました。日本では、乱獲を規制する法律がほとんど機能していないので、乱獲をする日本の漁業者は違法ではないのですが、乱獲状態を放置し続けている日本政府の姿勢は、海の憲法と呼ばれる、国連海洋法条約の理念に反しています

日本の漁業が衰退している要因は、乱獲で間違いないのですが、乱獲の主体は日本の漁業者です。北海道や本州太平洋側は、日本一国で占有している漁業資源が大半ですから、国内漁業を規制すれば、日本漁業の衰退はかなりの部分を食い止められるわけです。日本政府がきちんと漁業管理をして、乱獲を抑制すれば、日本の漁業は持続的かつ生産性な産業に生まれ変わります。

3. 中国が日中暫定水域で行っている乱獲

まずは、日中暫定水域について説明をします。1997年に締結された日中漁業協定において、日中の双方が領有権を主張している場所には、暫定措置水域が設置されています。暫定措置水域内の漁業には次のような取り決めがあります。

  • 日中双方の漁船が相手国の許可を得ることなく操業できる
  • 操業条件は、日中共同漁業委員会が決定する
  • それぞれの国が、取り締まり権限を持つのは、自国の漁船のみ
  • 相手国の違反を発見した場合には、漁船に注意喚起すると共に相手国に対して通報することができる

今、暫定水域で操業をしているのはほとんどが中国船です。日本船は数える程度しかいない。規制をしたところで、日本漁船には影響がほとんど無いのです。日本は、乱獲で資源を潰しておきながら、自国の漁船が撤退したら「規制を強化しよう」と提案しているわけです。欧米の捕鯨国と、何ら変わりがありません

では中国が日本の提案を飲むかというと、飲むわけがない。中国にとって、撤退済みの日本と共同管理をするメリットは何もないのだから。日本国内でいくら中国を非難したところで、外交的に見れば、何の得にも成りません。はっきり言うと詰んでいるわけです。

4.  中国の日本のEEZ内での違法操業

これは問答無用の違法操業ですから、中国当局と連携して、きちっと取り締まらないといけない。 漁船の監視には、Vessel Monitoring Systemという機器の導入を義務づけるのが効果的です。これは1時間に1度ぐらいの頻度で漁船の位置情報を管理当局に強制的に報告する装置です。すでにほとんどの漁業先進国では導入が義務づけられています。ちなみに、ロシア領で操業をする日本漁船にはすべてVMSの導入が義務づけられています。日本近辺で操業する中国船にはVMSの導入を義務づけるべきです。

合法? 対応可能性 日本漁業への悪影響 管理主体 やるべきこと
1 日本の過去の乱獲 × 過去の失敗に学ぶ
2 日本が自国のEEZで現在も行っている乱獲 × 日本政府 自国の資源管理
3 中国が日中暫定水域で行っている乱獲 地域漁業管理期間 公海での管理の枠組みをつくる
4 中国の日本のEEZ内での違法操業 × 日本政府と中国政府 中国政府と連携して取り締まりの強化

結局、日本は何をすべきなのか?

日本の国益(漁業資源と国境の維持)という観点から、未来志向で何をすべきかを整理してみよう。

優先順位が一番高いのは、日本のEEZの資源管理をすることです。日本の漁業が衰退している主要因は日本漁船による乱獲。たとえば、スケトウダラやハタハタの例を見ればわかるように、今のまま乱獲を放置し続ければ、中国漁船がいなくても、日本漁業の消滅は時間の問題です。自国の漁業管理は、完全に国内問題ですから、これが出来ていないのは政府の怠慢。日本は実に幸運なことに世界第六位の広大なEEZをもち、その中に世界屈指の好漁場がすっぽり含まれている。国内漁業の規制をするだけで、太平洋・北海道の漁業の生産性は改善できる。また、日本海側にしても、日本のEEZでほぼ完結する資源は多い。ちゃんと手入れをすれば、自分の庭から大きな利益が期待できるのである。こんなに恵まれた国はなかなかない。たとえば、ノルウェーは水産資源のほとんどをロシアとEUと共有している。苦労して国際交渉をしながら、資源管理をしている。ちなみにノルウェーがEUに加盟しない理由の一つが水産資源管理です。ノルウェーはEUの資源管理(共通漁業政策)よりも、かなり進んだ資源管理を行っています。自国の資源管理をEU水準に落として、漁業の生産性を下げたくないのです。

日本がやるべきことは、ノルウェーやニュージーランドのような資源管理先進国の成功から謙虚に学び、資源管理をすることです。つまり、産卵親魚の保護と、未成魚の漁獲規制をすると言うこと。こういった当たり前のことをしないで、国内の乱獲を補助金で支えているから、日本の漁業が衰退するのは当たり前です。政治家も官僚も、国内の漁業者から猛反発を受けるので、自国の乱獲という国内問題を避けてきました。「日本の漁業者は意識が高くて、自分たちで資源管理をしているから、公的機関は何もする必要が無い」という神話を作り出して、何もせずに今に至っています。日本の漁業が衰退しているのは、中国のせいではなくて、日本の責任です。

日本の国境を守るには、離島の漁業を守る必要がある

離島に日本人が住んでいる限り、その島が日本の領土であることは疑問の余地がない。しかし、無人島になってしまえば、そこを守るにはコストがかかるし、実効支配されたら打つ手がなくなってしまう。日本の領海を守るには、離島に日本人が住み続ける必要がある。そのために、欠かせないのが離島の雇用です。

離島の基幹産業は、バブル期までは建築業でした。離島に補助金をつけて、誰も通らないような道や誰も使わないような港や公園を作りまくったのである。島の人口の半分以上が建築業で、観光資源の自然を公共事業で破壊しているようなケースが多かった。バブル崩壊以降、公共事業が縮小された関係で、建設業の雇用が減っている。残された産業は漁業と観光ぐらいしかない島が多い。

日本海側の離島の漁業には、中国・韓国との競合が少なからぬ影響を与えているのは事実です。しかし、離島の漁民の悩みの種は、日本本土の大型船による乱獲です。日本の漁業従事者のほとんどは沿岸漁業者であり、9トン程度の小型船で日帰りで漁に出る。つまり、日本のEEZ内で操業をしているのです。かつて八丈島にはサバ棒受け網漁業が栄えたのですが、日本の巻き網船のサバ未成魚を乱獲によって、漁場が消滅し、漁業自体が消滅してしまいました。巻き網漁船の乱獲によって、日本海の一本釣り漁業は窮地に立たされています(参考:壱岐漁業者インタビュー)。

韓国との国境の島である対馬でも、漁業は厳しい状況の置かれているのです。先日、対馬市が島の漁業者を集めてワークショップを行ったのですが、日本本土の巻網船をなんとかしてほしいという声が大きかったです。対馬の周辺漁場に魚群がまとまると、長崎あたりから大型巻き網船が来て、根こそぎ魚を持って帰ってしまうのです。中国船・韓国船は暫定水域までしか入れないのですが、日本の大型船は、対馬の沿岸3マイルまで入って操業できるので、地元の小規模漁業に多大な影響を与えています。対馬では大型船の線引きをもう少し外にしてほしいと、陳情していますが、何十年も放置されたままです。島の基幹産業である漁業がこのまま衰退していけば、対馬には韓国の観光地として生き残る以外の選択肢がないでしょう。国防の観点から、離島の漁業を守るのは、国益上重要ですが、そのためにまずやるべきことは、国内の資源管理なのです。

 中国の膨張を止めるには・・・

中国漁船の規制は、相手があることだから、日本の思い通りには進みません。中国政府は、日本政府よりは、資源の重要性を理解しているので、近いうちに漁業管理を始めるはずですが、その際には、国内の規制として進める可能性が高い。共同水域の漁場をすでに実効支配している現状で、中国にとって、日本と共同管理をするメリットが無いからです。この海域の資源管理秩序を日本主導で打ち立てるには、日本が実効支配していた時期に、手を打っておく必要がありました。残念なことに、当時の日本政府は、自国の漁船に出来るだけ多くの魚を捕らせることしか考えていませんでした。まあ、今も似たようなものだけど・・・

日中漁業協定については、こちらのサイトが詳しいです。1975年の漁業協定はつぎのようなものでした。

中国沿岸部よりに6つの漁区が設けられ,そこでの底引き網・まき網漁業について船舶の隻数や網目に関して制限が設けられている。これは以前から懸念されていた日本側漁船の中国沿岸における乱獲,およびそれに伴う資源枯渇を意識したものであり,当時の日本漁業の中国漁業に対する圧倒的な優勢を前提としたものであった。

つまり、「中国の沿岸は手加減してやるけど、沖合は俺たち日本が好きなように獲るよ」という協定だったのです。この時期に「この海域の資源をしっかりと共同管理しよう」と日本が提案していれば、ほとんど操業実績が無い中国は、一も二もなく賛成をしたでしょう。その当時に、「過去の漁獲実績ベースで、漁獲量を厳しく規制する」というような枠組みをつくっておけば、中国漁船はそう簡単に進出できなかったはずです。今となっては、後の祭りだけど。

歴史は繰り返すと言いますが、1960年代に日本が世界中でやっていたことを、今度は中国からやられているのです。ノーガードで打ち合っても、コストが高い日本漁船に勝ち目はありませんし、その前に資源が崩壊するでしょう。漁場を実効支配されている中国には、日本のために妥協をするメリットがないのだから、一筋縄ではいかない。中国の乱獲に対する日本国内の世論をいくら高めたところで、中国サイドから見れば「負け犬の遠吠え」です。

ただ、方法が全くないわけではありません。日本は自らの苦い歴史から学べば良いのです。中国の膨張を食い止めるには、欧米諸国が日本漁業を封じ込めるときにやったことをやればよい。つまり、資源の持続性や生態系保全という大義名分で、他の先進国と共同戦線を張って、規制を導入させるのです。これ以外に選択肢はないでしょう。残念なことに、日本の水産外交は全く逆のことをしています。ワシントン条約の締約国会議でも、中国と組んで、ありとあらゆる規制に反対をしています。日本漁船の国際競争力は低下しており、自由競争をして勝てる状況にないのに、すべての規制に反対をして、中国の膨張をアシストしているのです。追われる立場になっているのに、追う側と一緒になって、規制に反対しているのだから、つける薬がありません。

生態系保全の必要性を国際世論に訴えるには、自国の乱獲を止めるのが必要条件です。海外では、日本の乱獲はよく知られているので、今のままで問題提起をしても、「まず、おまえが乱獲を止めろ」と鼻で笑われるのがオチです。

結論

日本政府は、資源管理をして、自国の乱獲を止めさせること。それにつきます。自国の漁業を規制すれば、日本漁業が抱える問題の多くは解決します。逆に、自国の乱獲を放置したまま、中国を非難していても、国際世論の支持は得られないし、日本の漁業が衰退して、離島が浸食されていくのは時間の問題です。

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東シナ海における日本の乱獲の歴史

昨日のクローズアップ現代(国境の海で魚が消える ~追跡 中国虎網漁船~)を録画で見ました。内容はこんな感じ。

  • 豊かな資源を求めて、東シナ海に押し寄せる中国漁船。
  • 漁場を追われ急速に衰退する日本漁業。
  • 漁船が担ってきた国境の監視機能も低下しています。
  • 日本は日中共同水域の資源管理を中国に呼びかけたが、中国から拒否されている。
  • 漁業の衰退で中国漁船が国境の中に入りやすくなっている。

中国が虎網というむちゃくちゃな漁法で乱獲をしまくっているので、日本の漁師さんたちが困っているというお話です。中国の虎網漁船を取り締まる水産庁の監視船の乗組員は、「我が国の水産資源を責任もって守る」と熱く語っていました。

NHKのサイトでクローズアップ現代の全文文字おこしがあります。見逃したかたは、こちらをどうぞ。 http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3329_all.html

この番組では、日本漁業が一方的な被害者として描写されていました。視聴者の多くは、中国漁業に対して悪印象を持つと同時に、日本の漁師に同情を覚えたことでしょう。しかし、歴史をひもといてみれば、かつては豊穣の海だった東シナ海の水産資源を破壊したのは、他ならぬ日本なのです。日本の乱獲で、東シナ海で捕れる魚は減少の一途を辿りました。コストが高い日本漁船では利益が出せなくなり撤退をしたところに、コストが安い中国船が入ってきて、日本が乱獲をした絞りかすを、容赦なく絞っているのです。

東シナ海のトロール漁業(以西底引き網漁業)の歴史

日本漁船が東シナ海に進出したのは、1908年に英国から汽船トロールという効率的な技術が導入されてからです。汽船トロールは瞬く間に広がり、沿岸漁民との深刻な対立を生み出しました。1908にトロール漁業排斥期成同盟会が結成され、翌年に「汽船トロール漁業取締規則が」制定されました。沿岸での操業を禁止されたトロールは、外洋へと向かったのです。太平洋戦争が終わって間もない1951年に、東シナ海の漁場を担当する水産庁の西海区水産研究所が「以西底魚資源調査研究報告」という47ページの報告書を発表しました。この報告書には、当時の東シナ海漁業の姿が克明に記されています。

 この広大な海面に操業する漁船は、1910年前後のトロール船による開拓と同時に、決河の勢いをもって此処に進出し、船数は上昇の一途をたどり、次いで、1920年前後において、漁法の改良により発展の途上にあった汽船底曳き漁船がこれに参加し、恰(あたか)も欧州におけるNorth Sea漁場と比肩すべき世界的漁場に迄発展し、将に絢爛(けんらん)たる状態を現出した。
然し、該漁場の資源に就ては、すでに1920年代から減衰の危険が叫ばれていたが、漁業者および当局の資源維持に対する無関心の為、又徒に所謂「赤もの」乃至「上もの」と称せられる「タヒ類」、「ニベ」、「マナガツヲ」等の高級魚類にその目的を置いた為に、本邦における他の多くの漁場の場合と同じく、否更に強度の又急激な荒廃状態を呈し始めた。そこで、従来市価の非常に低かった「グチ類」、「エヒ類」、「エソ類」、或は「フカ類」の如き「潰し物」乃至「下物」を漁獲対象とし、これ等を大量に漁獲することに依って上物不足を補う方向に進んできたのである。

トロール漁業が活発化すると、レンコダイ、マダイといった高級鮮魚は、瞬く間に獲り尽くされました。図の黒線が漁獲量。赤線が一回の操業での漁獲量(単位漁獲努力量あたり漁獲量)です。

高級魚がいなくなると、グチやニベなどのつぶしものと呼ばれる単価が安い魚が漁獲されましたが、これも減少の兆しがみえています。トロールという漁法の効率性の高さがよくわかりますね。こういう漁法で、魚を自由競争で奪い合ったら、魚がいなくなるのは当然でしょう。

東シナ海の魚にとっては幸運なことに、1941年(昭和16年)に太平洋戦争が始まると、漁船は軍に徴用され、東シナ海の漁獲はほぼ停止しました。戦争が終わって、再び漁業が開始されると、水産資源はかなり回復をしていたのです。しかし、戦後も同じことを繰り返しました。1947年に本格的に漁業が再開されたのですが、翌年には資源の減少が顕著になりました。西海区水産研究所のレポートは次のように警鐘をならしています。

一曳網の漁獲量(1回網を引いたときの漁獲量)は、1947年の230貫から、1948年の191貫に低下した。而も1948年は最も違反操業が多く、許可海域外での漁獲が相当の部分を占めると思われるから、許可海域での1網平均漁獲量の低下は、これより著しいと推定される。そして、予想された通り、レンコダイ、エソ、シログチ、フカの資源がすでに減少し始めたことは表2からうかがわれる。又、其他の部類に含まれる価値の少ない雑魚が、著しく大きい部分を占めていることも、戦後のこの漁業の特徴である。

従来の漁業およびその研究は、いかにすれば多量の魚を漁獲できるかに主眼が置かれていた。ある漁場で獲れなくなれば、船足を伸ばして新漁場を開拓し、また新しい漁具、漁法を考案して獲れるだけ獲ったのであり、獲った後がいかなる状況になるかにおいては、一顧も与えなかった。その央にしても獲れる間は良いが、魚は海の中に無限にいるのではない・・・獲り得主義の、そして、将来に対する見通しを持たなかった漁業のあり方の結末は自明であって、乱獲による資源の枯渇現象となって現れ、経営が行き詰まってきたのは、蓋し当然と言わねばならない。

下の図は、戦後の東シナ海漁場の漁獲量です。残念ながら、西海区水研の報告書が警告した通りになってしまいました。

1950年代には、漁場の拡大と漁船の大型化により、漁獲量は増えました。1960代から、漁獲量は直線的に減少しました。1951年の時点で、研究者も、管理当局も、漁業者も、魚を獲りすぎているという自覚はあったにもかかわらず、戦前と同じ失敗を繰り返してしまったのです。漁業規制は現在まで行われていません。1980年代から、日本漁船は採算がとれなくなり、撤退が相次ぎました。撤退していく日本の中古船を買って、中国人が同海域で操業を開始しました。この漁場に中国漁船が進出してくるのは、日本漁船が撤退していく1980年以降の話なのです。その時点で、東シナ海の資源は、日本によって、すでに乱獲をされていたのです。

筆者の所属する三重大学では、毎年、東シナ海でトロール実習を行っています。何時間も底引き網を曳いても、商業価値のないカニしか獲れません。かつての豊穣の海の面影は、どこにもありません。豊かな漁場を砂漠のような場所に変えてしまったのは、ほかならぬ日本の漁業者です。戦前と戦後に、同じ失敗を繰り返したにもかかわらず、日本の漁業者には、現在も反省の色は見られません。クローズアップ現代は、日本の過去の乱獲は無かったことにして、「中国の最近の乱獲で日本の漁業が衰退している」と主張します。実際は、日本の漁業者が乱獲をして、自滅したのです。中国漁船が日本漁業衰退の主要因ではないことは、中国船が来ていない太平洋側の漁業も、日本海側と同様に廃れていることからも、明らかでしょう。

そのうえ、日本は現在進行形で自国のEEZの乱獲を放置しています(参考その1 参考その2)。日本の漁業関係者は、過去の乱獲を反省せず、同じことを繰り返しているのです。確かに、現在の中国漁船の乱獲操業はほめられたものではありませんが、日本の漁業者に、他人事のように中国漁船を非難する資格は無いでしょう。乱獲を放置して、日本の水産資源の減少に荷担している水産庁が、「我が国の水産資源を責任もって守る(キリッ)」と言っていたのには呆れてしまいました。自国の水産資源を守りたいなら、まず、自国のEEZの資源管理をしてもらいたいものです。

日本の漁業管理について知りたい人は、これでも見てください。

日本の乱獲を知っていながら報道しなかったNHK

実は、NHKはこのブログの記事に書かれた事実を全部知っていました。NHK長崎が俺のところに取材にきたので、こういった背景を説明した上で、西海区水研の報告書のコピーを渡してあります。知らなかったとは言わせない。NHKは、歴史的な経緯をすべて理解した上で、日本の乱獲については一切触れず、「中国の乱獲のせいで、無辜な日本の漁師さんたちが迷惑をしている」という番組をつくったのです。ちなみにゲストの専門家の東海大・山田吉彦教授は、海賊問題がご専門のようですね。この海域の漁業の歴史を少しでも知っていたら、自国の乱獲を棚に上げて、中国を一方的に非難できなかったと思います。

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俺が出演した回のさかなTVがYoutubeにアップされました

先週、ニコ生で放映されたものと同じ内容ですが、こちらは、どなたでもごらんになれます。

話の内容はこんな感じです。

  • 日本の漁業は、乱獲で自滅をしている
  • 国の漁獲規制は全く機能していない
  • きちんとした規制をすることで、漁業の生産性は大幅に改善できる

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予定通り、北海道日本海側のスケトウダラ資源が減少し、漁業が消滅の危機

北海道日本海側のスケトウダラが激減しています

スケトウダラは、北海道で重要な水産資源の一つであり、ニシンがほぼ消滅した現在は、スケトウダラに依存した漁村も多い。同じスケトウダラでも、産卵場や生育場所が異なる複数の群れが存在し、それを「系群」と呼びます。日本周辺には、

  • 太平洋系群
  • 日本海北部系群
  • 根室海峡系群
  • オホーツク海南部系群

の4つのスケトウダラの系群があります。このうち日本海北部系群の資源が極度に悪化しているのです。

資源量が減って、漁獲割合が上がる?

漁業資源の状態は、独立行政法人 水産総合研究センターによって、まとめられています。

http://abchan.job.affrc.go.jp/digests24/html/2410.html

1990年代後半から資源が直線的に減少し、底引き網、延縄ともに撤退が相次いでいます。1997年から、国によって漁獲枠が設定されて、漁業者がそれを守ってきたにも関わらず、「北海道の日本海側に漁業者がいなくなるかもしれない(漁業者談)」というような事態になっているのだ。

ここで、着目して欲しいのは上の図の漁獲割合(赤丸線)です。1997年から、2007年まで、漁獲割合が増加している。普通に考えれば、漁獲にブレーキをかければ漁獲割合は下がるはずなのに、スケトウダラの場合は、資源が減少するのと並行して、漁獲割合が上がっていったわけです。資源が減ってもブレーキをかけるどころか、アクセルを踏んでいたことになります。

科学者の勧告

詳細な資源評価(アセスメント)はここにあります。このPDFの2ページ目の管理シナリオの一覧を見てください。

重要なポイントは、下から二行目です。親魚量の維持が0.44Fcurrentとあります。これは、現在の親魚水準を維持するには、漁獲圧を現在の44%の水準まで落とす必要があることを意味します。いまだに、資源量を維持できる水準の倍以上の漁獲圧をかけているのだから、資源が減るのは当然でしょう。ちなみに、この年の科学者の勧告した漁獲量は下から3番目の7.7千トンでした。現在の資源量はあまりにも低水準なので、回復の必要がある。かといって、急激な漁獲の削減は現実的に難しい。そういうことで、(わずかでも親魚量を増大)というシナリオを選んだものと思われます。

持続性を無視する漁獲枠設定

これに対して、水産庁がどのような漁獲枠を設定したかという資料がこれ( 水産政策審議会に水産庁が提出した資料) → 24年漁期TAC(漁獲可能量)設定の考え方(PDF:101KB)

科学者が勧告したABC(生物学的許容漁獲量)0.77万トンのところを、水産庁が提案した漁獲枠は1.3万トンですよ。毎年、大勢の研究者が集まって、時間をかけて資源評価をしているのに、まるで無視。

水産庁が示した漁獲枠の根拠は次の通り。

【日本海北部系群】 資源回復計画(努力量削減、小型魚保護等)と組み合わせた資源管理を実施。資源が低位で横ばい傾向にあり、漁業経営におけるスケトウダラへの依存度が高いことを踏まえつつ、TAC(案)は23年漁期と同量の13,000トンとする。(北海道知事管理分の一部(1,000トン)については留保)

「資源が低位で、漁業経営における依存度が高いから、持続性を無視して良い」というロジックが私には理解不能です。審議会に出席している有識者のどなたかに突っ込みを入れてほしいところですが、鰈にスルーされています(第55回資源管理分科会議事録)。唯一、佐藤委員が「前年同期と同じ1万 3,000 トンというような書き方なのですが、基本的には、歯止めをかけるのであれば、もっと少ない方がいいかなとは思うのですけれども、経営のことがございますので、やむなしと思っているのです」と、水産庁の決定に理解を示したのみでした。今年のTACを決める会議は、平成25年2月22日に開催されましたが、ABCが7.6千トンで、TACが1.3万トンでした。状況は何ら変わっていないのです。

平成18年から、平成25年までの科学者の勧告(ABC)と日本政府が設定した漁獲枠(TAC)をグラフに示すとこうなります。本来は、科学者が勧告した漁獲量(青い棒)の範囲で、漁獲枠(赤い棒)を設定しないといけないのですが、そうなっていません。みごとに、資源の持続性を無視してきたことが、よくわかります。日本では、資源管理の名の下に、このようなことが行われているのです。

日本では国が漁獲枠を設定しているのはたったの7魚種しかありません。そのうちの一つがこのスケトウダラです。数少ない資源管理対象であっても、国が持続性を無視した漁獲枠を設定したせいで、残念ながら、資源を守ることができませんでした。

魚が減るとわかっている漁獲枠を設定し続けた結果、順調に魚が減ったのだから、「予定通り」です。「漁業経営のため」といって、乱獲を放置して、漁業自体をつぶして、いったい誰の得になるのでしょうか。水産庁という組織が、日本の漁業をどうしたいのか、私には全く理解不能です。

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本日、ニコ生で話をします

三重大学准教授 勝川俊雄氏に学ぶ、

日本と世界の資源管理の違い。
さかながなぜ減ってしまうのか、そして海外と日本の資源量の違いはどのくらいで、なぜ違うのか!?

♪  築地市場のマグロ仲卸3代目に学ぶ、日本のさかな事情 JPLIVE.TVにて毎月2回生放送!
準備中配信 15:45〜 番組本番配信 16:00〜
JPLIVE.TV : http://jplive.tv(twitter参加可 (#jplivetv)) ニコニコ生放送:【検索:”jplive.tv”】(コメント参加可)

http://live.nicovideo.jp/watch/lv131760378

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資源回復計画が予想通り破たんして、青森県のイカナゴが禁漁となった

青森県でイカナゴが禁漁となった。この背景について、考えてみよう。

毎日新聞: イカナゴ:全面禁漁へ 春の味覚、乱獲で激減 陸奥湾6漁協、特定魚では初 /青森
陸奥湾でとれる春の味覚「イカナゴ(コウナゴ)」が乱獲などで激減していることを受け、県と湾内6漁協は今春から、全面禁漁することで合意した。当面、禁漁期間は定めないまま資源量の回復を待つ。
昨年の湾内の資源量は1000万匹以下とみられ、県は3億匹まで回復させることを目指す。

 湾内でのイカナゴの漁獲量は73年の約1万1745トンをピークに減少が続き、昨年は約1トンまで落ち込んだ。漁獲金額も77年の約11億円から昨年は約40万円に減っている。海水温の低下でイカナゴが育ちにくくなったことや乱獲が原因とみられる。
http://mainichi.jp/area/aomori/news/20130214ddlk02040018000c.html

東奥日報: 陸奥湾イカナゴ、今春全面禁漁
禁漁措置について、脇野沢村漁協の千舩五郎参事は「ここ数年、ほとんど漁獲されず、ここまで落ち込めば禁漁はやむを得ない」、三厩漁協の廣津長一参事は「イカナゴの稚魚を餌にする他の魚種の漁獲にも影響するためイカナゴの資源回復は重要」と話した。
http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2013/20130213110002.asp?fsn=eb33f76037153e93cde084f7e7644d6f 

「青森県のイカナゴが減少をしたので、資源回復のために禁漁します」 ということなんだけど、以下の2点に注意してほしい。
1) 親魚量が適正水準の1/30まで減少している
2) 漁獲がほぼ成り立たない水準(県全体の生産金額が40万円) まで落ち込んでいる
ようするに、漁業が成り立たなくなって、禁漁してもしなくても、変わらないぐらい魚が減ってから、ようやく禁漁にしたのである。ノーブレーキで壁に激突してから、ブレーキを踏んでいるようなものです。これをもって、美談とするのは大間違い。むしろ、「なんでここまで減らしたのか」を考えて、再発防止をしないといけない。

イカナゴ資源の減少は、かなり前から問題になっていた。2007年から、 「青森県イカナゴ資源回復計画」が行われていた。行政と漁業者が、資源回復に努めていた(はずの)資源がここまで、減ってしまったのである。

青森県がウスメバルとイカナゴの「資源回復計画」を作成
青森県は日本海、陸奥湾、津軽海峡海域のウスメバルに関する「青森県ウスメバル資源回復計画」、陸奥湾湾口周辺海域、白糠・泊地区周辺海域のイカナゴに関する「青森県イカナゴ資源回復計画」を作成し、2007年3月28日付けでこの2つの計画を公表した。
「資源回復計画」は悪化傾向にある日本周辺水域の水産資源の回復を漁業関係者や行政が一体となって取組むために策定されるもので、複数県にまたがり分布する資源については国が、分布が一都道府県内にとどまる場合は都道府県が計画を作成することになっている
http://www.eic.or.jp/news/?act=view&serial=15742

資源回復計画の概要はここにある。(水産庁は頻繁にURLを変えるので、リンクが切れていた場合は、”青森県” “イカナゴ” “資源回復計画”で検索してください。)

http://www.jfa.maff.go.jp/j/suisin/s_keikaku/pdf/aomori_ikanago.pdf

できれば内容に目を通してほしいのだけど、資源回復計画が策定された当時の状況を見てみよう。

長期的な漁獲量のトレンドは、下図のようになる。1980年代から、1990年代中ごろまでの不漁は、マイワシが増加した影響だろう。1990年代中ごろに、マイワシがいなくなって、イカナゴに努力量がシフトして、すぐにイカナゴの漁獲量が減少を始める。1997年から2006年までに漁獲量は5%程度まで減少をしている。6年前には、すでに、何らかの資源回復措置が必要という共通認識が、行政にも漁業者にもあったのだ。

 

資源回復計画の目的は、産卵量の確保であった。イカナゴの産卵数と新規加入個体数には次のような関係がある。産卵数が5兆粒を下回ると、翌年の加入資源尾数(卵の生き残り)が減少するという傾向が見て取れる。この資源を持続的に有効利用するには、良好な加入が期待できる5兆粒以上の親を残しておくことが望ましいのである。この産卵量を維持するのに必要な親の量は3.5億尾となる。この分析自体は、非常に良いと思う。問題は、そのための措置が取られなかったことである

 

回復計画を作った時点で、「2006 年の親魚数は1.1 億尾であり、漁獲努力量を維持した場合、10 年後の親魚数が0.3 億尾に減少する」ということはわかっていた。資源量は適正水準を下回っているうえに、漁獲圧は非持続的な水準であった。明らかな乱獲状態である。本来は、漁獲圧を下げて、親魚量を回復させなければならなかったのは明白である。

県水産総合研究センターの資源解析のシミュレーションでは、イカナゴ資源を回復するためには少なくとも現在の漁獲努力量から3 割削減する必要があると予測された。しかしながら、このような大幅な削減措置を行った場合、漁業者には多大な負担を強いることとなり、漁業経営を極度に圧迫するおそれがあるため、漁期の短縮や操業統数の制限により漁獲努力量を削減し、産卵親魚を保護することにより、イカナゴ資源の減少傾向に歯止めをかけ、過去3 ヵ年(2004 年~2006 年)の平均漁獲量600 トンを維持することを目標とする。

漁獲圧を削減するときに、普通の先進国では、漁獲枠を削減する。というのも、現在の漁船の性能をもってすれば、少数の漁船で、減少した資源を短期的に獲りきることが可能だからである。漁期の短縮や操業統数の制限は、実質的な効果があまりないというのは、我々の世界の常識である。

こういった実効性の低い緩い措置が日本では主流である。その理由は、実効性が低い措置は、漁業者からの反発もすくないからである。日本では、補償金と引き換えに、こういった緩い措置を導入して、「資源管理をしていることにする」のが一般的だ。

で、どうなったかというと、こうなったわけだ。

一直線に減少し2012年の漁獲量は1トンで、生産金額は40万円。さすがにここまで減ると、市場でも扱いづらい。ということで、実質、漁業は崩壊したといってもよいだろう。「600トンの漁獲量を、400トンまで減らすのは、漁業経営を極度に圧迫する」からといって、10年もしないうちに漁業自体を消滅させてしまったのだ。

資源回復計画は、実効性のない取り組みをして、やっているふりをしているだけ。「資源管理」ではなく、「資源管理ごっこ」だから、効果はない。そんなことは、やる前から、わかりきっていたことだけどね。

資源回復計画はなぜ失敗するのか?(2007年に書いたブログの記事です)
https://katukawa.com/?p=383

日本は、漁業者が困るからと言って、乱獲を放置して、漁業を衰退させている。資源の持続性に対して責任を負うべき行政の無作為が、産業の衰退を招いてきたのである。

海外の資源管理はどうなっているかというのは、こちらを参考にしてほしい。

ノルウェー式の資源管理は日本の水産資源復活に直結するか?
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2518?page=3

アイスランドのシシャモ漁業は、取り残すべき親の量(赤線)を維持できるように漁獲枠が決まっている。

アイスランドのシシャモは、2008年の漁獲シーズンに、資源量が少ないので禁漁という情報が流れました。しかしこの時も、禁漁になることに対して漁業者が大騒ぎするわけではなく、資源量が少ないので「回復を待たねばならない」という意識が強かったのが印象的でした。日本であれば「魚はいる!獲らせろ!」と大騒ぎになるケースであったことでしょう。

アイスランドの場合は、ちゃんと赤の線が維持できるように漁獲枠の削減をしたから、すぐに資源が回復した。アイスランドは、網を引けば魚がいくらでも獲れる時期に禁漁をしている。ノルウェーもシシャモが減ったらすぐに禁漁だし、ニュージーランドに至っては、漁業者が「資源回復のために漁獲枠を減らせ」と主張して、政府に漁獲枠を削減されせている。魚が獲れなくなってから禁漁をする日本とは根本的に違うのである。

読者の皆さんにも考えてほしい。漁業者がかわいそうだからと言って魚がいなくなるまで規制をしなかった日本と、資源の持続性を守るために魚がいるうちにきちんと規制をしたアイスランドと、どちらの漁業者が本当にかわいそうだろうか。ちなみに、アイスランドの漁業者は、儲かって、儲かって仕方がないようですよ

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クロマグロに関する報道の内外格差の検証:クロマグロは増えていて、安くなるのか?

太平洋クロマグロを管理する国際機関WCPFCのレポートのドラフトが公開されました。例によって、例のごとく、国内外で報道の方向が180度違います。

太平洋マグロ、規制継続なら20年で3・6倍に
読売新聞(2013年1月10日09時22分) 

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20130109-OYT1T00226.htm

日本近海を含む太平洋産のクロマグロ(親魚)が、2030年までに最大で10年の3・6倍に増える可能性があるとの予測を、漁業管理機関「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」の科学委員会が8日公表した。
日本で消費されるクロマグロのうち、太平洋産は約7割を占めている。資源量の増加は、将来的な価格下落につながる可能性もあり、日本にとっては朗報といえそうだ。

web魚拓

太平洋のクロマグロは2030年に3・6倍に 国際委員会が予測、現行水準で規制続けば
産経新聞(2013.1.10 18:34)  

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130110/biz13011018360038-n1.htm

中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の科学委員会が、太平洋クロマグロの漁獲規制が現行と同水準で続けば、2030年には親魚の資源量が10年水準の約3・6倍に増える可能性があると予測したことが10日、分かった。

日本で消費されるクロマグロの7割弱は太平洋クロマグロ。資源量が増えて漁獲規制が緩和されると、価格下落につながる可能性がある。

科学委員会は8日公表した報告書で、10年の親魚の量が2万3千トン弱と歴史的な低水準にあると指摘した。

web魚拓

どちらも同じような「増えるよ、安くなるかもね」という大変に楽観的な論調。産経新聞が現在の資源量が低いことにさらっと触れているが、読売にはそれすら無い。

一方、同じ報告書を元にした海外発のニュースはこんなかんじ。

太平洋クロマグロの資源量急減、漁獲規制が不十分-環境団体
ブルームバーグ(2013/01/09 13:42 JST)

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MGCAA86KLVS001.html

太平洋クロマグロの資源量は過剰な漁獲が影響し、漁獲しなかった場合の水準を96.4%下回っているとピュー環境グループが指摘した。

詳しくはリンク先を全文読んでほしいのですが、全く違う論調です。実はこれ同じ報告書を元にしているのだから、驚きですね。どこを抜き出すかによって、読み手に全く異なる印象を与えることができるのです。

 

実際に、報告書を見てみよう

ソースによって内容が大きく違う場合は、一次情報に当たるのが鉄則。ということで、報道の元となった報告書の中身を見てみよう。公開文書ですので、こちらからダウンロードできます。

http://isc.ac.affrc.go.jp/pdf/Stock_assessment/Final_Assessment_Summary_PBF.pdf

英語だし、専門用語が多いので、要点となる部分を説明します。

太平洋クロマグロの資源状態については、3ページ目の 4. Status of Stockに重要な記述があります。

Although no target or limit reference points have been established for the Pacific bluefin tuna stock under the auspices of the WCPFC and IATTC, the current F (average 2007-2009) is above all target and limit biological reference points (BRPs) commonly used by fisheries managers (Table 2), and the ratio of SSB in 2010 relative to unfished SSB is low (Table 3).

地域漁業管理機関WCPFC・IATTCは、太平洋クロマグロ資源の管理目標となる指標を何も示していないのだが、現状の漁獲圧(2007-2009の平均)は一般的に利用される管理指標のすべてを上回っており(Table 2)、漁獲が無かった場合と比較した産卵親魚量(SSB)も減少している(Table 3)。

少しでも専門知識があれば、これを読んだだけで「こりゃ駄目だ」とわかります。それぐらいダメダメなのです。どこがどう駄目かを、3つのポイントに絞って説明しましょう。

1)管理目標を設定していない

目標の設定は資源管理の大前提です。「資源をどういう状態に維持します」という目標があって、「ではどうする?」という議論ができる。

たとえば、大西洋の水産資源を管理するための機関であるICESは、資源量を目標値(Bpa)以上に、漁獲圧を目標値(Fpa)以下にするという明確な方針がある。資源量が目標値を下回った場合、および、漁獲死亡が目標値を上回った場合には、速やかに漁獲圧を削減する。このように、維持すべき目標があって、初めて、迅速な管理措置がとれるのです。「太平洋クロマグロには、管理目標すらない」というのは、管理が体をなしていないことの証です。

2) 現状の漁獲圧は一般的に利用される管理指標のすべてを上回っている

乱獲には、乱獲行為と乱獲状態という2つの形態がある。

乱獲行為: 非持続的な漁獲圧をかけること
乱獲状態: 生物の生産力が損なわれる状態まで資源を減らしてしまうこと

肥満にたとえると、カロリーのとりすぎが乱獲行為。健康に害がでるほど太ってしまうことが乱獲状態ということになる。カロリーを取り過ぎたからといって、必ずしもすぐに肥満になるとは限りません。乱獲行為と乱獲状態は分けて考える必要があります。漁業資源の管理の場合は、漁獲圧を強くしすぎない(乱獲行為の回避)、産卵親魚を減らしすぎない(乱獲状態の回避)、という2点が重要です。

乱獲状態の指標には、いろいろな考え方があるのですが、一般的なものを並べてみるとTable 2のようになります。

FmaxやFmedなどが、一般的に利用されている管理指標です。表の数値はこれらの管理指標と現在の漁獲圧の比を表しています。値が1よりも小さいということは、現在の漁獲圧が管理指標よりも大きいことを意味します。太平洋クロマグロの場合は、一般的に利用されいている管理指標を上回っているので、乱獲状態にあると言えます。管理指標にもいろいろあるのだけど、一般的にはF0.1, F30%, F40%が採用されます。たとえば、F30%のところには0.35という数字があります。これはF30%という管理指標を採用するなら、漁獲圧を現在の35%まで削減する必要があることを意味します。

Table2のなかで、注目してほしいのがFmedです。Fmedというのは、過去の平均的な条件で資源が平衡状態になる漁獲圧なので、現状の漁獲圧がFmedを上回っているということは、過去の平均的な環境のもとで、資源は減少することを意味します

3) 現在の産卵親魚量は、漁獲が無かった時代の3.6%まで減っている

クロマグロがどのぐらい減っているのかというのは、最後のページのTable 3をみるとわかります。

この表の右から2番目のDepletion Ratioというのが、漁獲が無い時代の親の量と2010年の親の量の比です。Run1からRun20まであるのは、シミュレーションの設定による違い。 自然死亡など、正確な値がよくわからないパラメータがたくさんあるので、様々な可能性を検討するために、20のシナリオを作って、シミュレーションをしているのです。20のシナリオの中で、現時点で一番もっともらしいと考えられているのが、ベースケースのRun2です。この場合、資源量は未開発時の3.6%まで減少していることになります。どんなに楽観的なシナリオでも5.4%、悲観的なシナリオだと2.1%まで減っているのです。

一般的な水産資源管理では、産卵親魚量は、未開発時の40%から50%を維持すべきと言われています。その水準を下回ったら漁獲規制を厳しくして、未開発時の20%を下回ったら禁漁にするというのが一般的な考え方です。10%を下回ったら、資源崩壊と見なされます。太平洋クロマグロの場合は、其れを遙かに下回る資源状態で、Fmedを上回る漁獲圧をかけているのだから、あまりにも非常識かつ無責任です。

2030年までに3.6倍に増えるとか言ってますけど、3.6%が3.6倍に増えても、未開発時の13%です。「資源が乱獲状態を脱した」というには、未開発時の40%程度まで回復させる必要があります。今からちゃんと漁獲規制をしたとしても、俺が生きている間にそこまでたどり着けるかどうか・・・。

そもそも、乱獲されていない資源は、短期的に3.6倍には増えません。未開発時の40%までしか減らしていなければ、禁漁をしたところで2.5倍にしか増えないのですから。

日本のメディアは、なぜこのレポートを元に、楽観的な報道をできるのか?

レポートの内容を見ていくと、太平洋クロマグロの悲惨な状態がわかると思います。このレポートをみてもため息しか出ませんでした。レポートでも、資源は乱獲されているという明記されています。

このレポートをもとに「クロマグロが、3.6倍に増える。安くなるかも!」という記事を書ける日本のメディアはなんなんでしょうね。救いようが無いことに、業界紙を含む国内メディアの大半が、足並みをそろえて、同じ論調の報道をしました。「3.6倍に増える可能性が示された」というのは嘘では無いのですが、前提となる悲観的な情報を取り除いて、その部分だけを楽観的に伝えるのは、世論操作と言っても良いと思います。消費者が資源の減少について知らされないまま、持続性を無視した消費活動を続けていけば、食卓から魚が減っていくのはやむを得ないと思います。

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