小サバの輸出によって短期的な収益は増えるのだが、
その代償として失われたものが2つある。
大きくしてから獲った場合に得られた収益と産卵である。
小サバ輸出の是非を問うために、これらの失われたファクターを定量的に評価してみよう。
2000から2006年までの漁獲を合計すると次のようになる。
|
漁獲尾数(10^5)
|
個体単価(円)
|
漁獲収益(億円)
|
|
13026
|
4.2~6.9
|
54~90
|
|
9381
|
44.8
|
420
|
|
2004
|
131.2
|
263
|
|
696
|
217.4
|
151
|
|
406
|
410.3
|
167
|
|
106
|
650.6
|
69
|
|
53
|
967.1
|
51
|
ここから近年の漁獲パターンがわかる。
小サバ(0歳)を輸出すると、輸送量が20円かかるが、
KGあたり70円で売れるので、全体として50円の儲けになる。
一方、国内で餌料になると30円の儲けにしかならない。
国内餌料だと個体単価が4.2円のところが輸出をすれば6.9円に跳ね上がる。
6年間の漁獲金額としては54億円が90億円に増える計算になる。
小サバの輸出で、マサバの生産金額はこんなに増えました!!
もともとタダ同然の0歳魚の値段が少し上がったところで、大した儲けにはならない。
しかも行く先がアフリカと中国では、値段が上がりようがない。
それでも、獲った人と輸出をした人の手元にはなにがしかの金額が残る。
ただ、その代償として何が失われたかを考える必要がある。
現状と比較するために、次の2つの漁獲パターンを考えてみよう。
0歳禁漁シナリオ:現状の漁獲圧を維持したまま、0歳魚のみを禁漁にした場合
70-80年代シナリオ:70年代、80年代の平均的な漁獲圧をかけた場合
0歳禁漁シナリオは0歳魚の漁獲の影響を評価するためのシナリオであるが、
実際に0歳のみを完全に禁漁するのは技術的に不可能だ。
ということで、70年代、80年代の平均的な漁獲圧をかけたらどうなるかも合わせて計算した。
過去に実際にやっていた獲り方なら技術的にも可能だろう。
結果にはほとんど影響がないので、0歳はすべて中国に輸出するものとして計算をした。
国内で餌料として消費する場合は、0歳の収益が3/5になります。
細かい計算結果は、一番下の続きを読むをクリックしてください。
漁獲尾数はこんな感じになる。
現状では0歳の漁獲が突出しているが、それを無くすと1歳以降の漁獲尾数がまんべんなく増える。
また、70,80年代は1歳もそれほど獲っていなかったので、2歳以降の漁獲の割合が増える。
この場合の漁獲高はこんな感じになる。

殆ど利益にならない0歳の漁獲を控えると、漁獲高は1211億円から1726億円へと跳ね上がる。
0歳魚を1億円分漁獲すると、漁業全体の利益が5.7億円失われる計算になる。
利益率の低い1歳の漁獲も抑制することで、さらに漁獲高は増加する。
最近の早獲り競争が如何に資源の生産力を無駄にしているかが良くわかる。
次に再生産を見ていこう。
漁獲のタイミングを遅らせると、その分だけ産卵に関与できる個体数が増える。

0歳を獲らなければ、産卵量は1.5倍になる。
また、昔の漁獲だと、産卵量は倍以上に増えたのである。
以上の結果をまとめてみよう。
小サバ(0歳)は、国内で餌料になるとKGあたり30円にしかならない。
これを中国に輸出すれば、送料を引いてもKGあたり50円の売り上げになる。
輸出によって、6年間の売り上げが54億円から90億円へと利益が増える計算になる。
0歳魚の漁獲によって90億円を稼ぐ代償として、全体の利益が515億円失われた。
0歳魚を1億円輸出すると、マサバ漁業全体の利益が5.7億円失われるのだ。
また、0歳を獲らなければ、産卵量は1.5倍に、昔の獲り方をしたら2倍以上に増えたこともわかった。
つまり、小サバの輸出によって、特定の人間が短期的利益を得る代償として、
マサバ漁業全体の利益が大きく損なわれている。
さらに、未成魚の乱獲で資源の再生産能力を著しく損なうことで、
マサバ資源の回復の芽を摘み、漁業の未来を奪おうとしているのだ。
また、70年代、80年代には、かなりまともな漁業をしていたことがわかる。
後先考えずに獲れるものを獲れるだけ獲り尽くす漁業を続けた結果として、
資源も、漁業もここまで酷くなってしまったのだ。