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魚種別 Archive

マイワシの変動と海洋環境

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ここで紹介したページを読めばわかるように、
マイワシは、海洋環境の影響で増えたり、減ったりする。
海洋環境が資源変動に影響を与えるのは、マイワシに限った話ではない。
多くの種で産卵場の水温と卵の生残率の間に相関があることが経験的に知られているのだが、
変動幅の大きさという意味では、マイワシやニシンなどのニシン科魚類がずば抜けている。

海洋環境が水産資源に与える影響は、つい最近まで過小評価されてきた。
水産生物資源の自然変動に関する研究の歴史を理解するには、
このパワーポイントファイル(California Sardines: A Fishery Biologist’s History)が最適だろう。
マイワシの自然変動を考える上で、重要な研究を2つ紹介しよう。

Kawasaki(1983)は、太平洋の両岸でマイワシの増えたり減ったりするタイミングが同期している事を発見した。
これらのマイワシは、分布が独立した別種であるにも関わらず、同じタイミングで増加・減少をしたのだ。
北太平洋の全域をカバーするような大規模な海洋環境の変動によって、資源変動が引き起こされていると示唆される。

Baumgartner et al.(1992)は、海底の堆積物のマイワシの鱗の数を計測し、
過去2千年にわたりカリフォルニアのマイワシとカタクチイワシが交互に増減を繰り返してきたことを明らかにした。
マイワシは、人間の漁獲が軽微であった時代から、大変動を繰り返していたのだ。

こういった一連の研究を組み合わせていくと、
大規模な海洋環境の変動に対応して増えたり減ったりするという、
マイワシの生物学的な特性が見えてくる。

1)マイワシは、数十年周期で自然に増えたり減ったりする。その変動幅は極めて大きい。
2)自然変動は、太平洋の全域をカバーするような大規模な海洋環境の変動によって引き起こされる。


では、日本のマイワシの歴史を簡単に振り返ってみよう。
マイワシの長期漁獲量は、ここにある。
http://eco.goo.ne.jp/business/csr/ecologue/wave21.html
1930年代に豊漁であったマイワシは、1940年代後半から減少し、
60年代には幻の魚と呼ばれるぐらい減少し、漁獲量が7千トンまで減った年もある。
そのマイワシが1972年から突如増加し、単一種で450万トンというとんでもない漁獲量を記録した後、
1988年から突如減少を始めた。
この減少に関しては、乱獲か、それとも自然現象かという議論があった。
この論争に白黒をつけたのが、Watanabe et al.(1995)だ。

太平洋海域におけるマイワシの年間総産卵量を見ると(図5)、再生産が順調であった1984~1987年の平均産卵量は3700兆粒、再生産が不調になった1988~1991年は4600兆粒と推定されている。再生産水準が著しく低下した1988年以降十数年のうちの最初の4年間の産卵量は、再生産が順調であった1980年代半ばと比べて決して低くなかった。産卵量の減少が1988年以降の再生産の失敗を引き起こしたのでないことは明らかである。
1988年以降も数年間は、マイワシ親魚が大量の卵を産みだしていたにもかかわらず、1988年から再生産の失敗が連続しということは、産み出された卵が資源に成長するまでのある段階で大量に死亡したことを意味する。

マイワシが激減しだした1988-1991年には、産卵量は多かったが漁獲対象となる前に死んでいたのだ。
漁業が関与できない生活史段階で減耗が起こっていた以上、激減は自然現象と考えるしかない。
Watanabe et al.(1995)によって、一時は有力であった乱獲説は完全に消滅した。
Wikipediaにも、「イワシ資源変動の原因については諸説があるが、
基本的に長期的に資源量に変化があるものであり、乱獲や鯨などの海洋生物の捕食によるものではなく、
長期的な気候変動(とその影響の餌のプランクトンの増減)による
ということが今日では通説となっている。」と書かれている。
これ以降、日本のマイワシ研究において、漁業の影響は無視されるようになる。
研究者の関心は、マイワシを変動させる環境条件を特定することへと移行した。
現在まで、マイワシの減少のメカニズムは特定されていないが、
その間も順調にマイワシ資源は減少を続けている。


References

Kawasaki, T. 1983. Why do some pelagic fishes have wide fluctuations in their numbers? – biological basis of fluctuation from the viewpoint of evolutionary ecology., p. 1065-1080. In G.D. Sharp and J. Csirke (eds.), Reports of the Expert Consultation to Examine Changes in Abundance and Species Composition of Neritic Fish Resources. FAO Fish. Rep. 291 (2, 3): 1224 p.

Baumgartner, T.R., Soutar, A., and Ferreirabartrina, V. 1992. Reconstruction of the History of Pacific Sardine and Northern Anchovy Populations over the Past 2 Millennia from Sediments of the Santa-Barbara Basin, California. California Cooperative Oceanic Fisheries Investigations Reports 33: 24-40.

Watanabe Y, Zenitani H, Kimura R (1995). Population decline of the Japanese sardine Sardinops melanostictus owing to recruitment failures. Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences., 52, 1609-1616.

マイワシについて書くことにするが、その前に宿題

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新聞記事では、マイワシ乱獲の背景について充分に書いてもらえなかった。
まあ、紙面の都合もあるから、仕方がないだろう。
スペースに何ら制約のないこのブログで、詳細について書くことにする。

もともと、マイワシ漁業については書く気満々だったんだけど、
どうせ書くなら資源評価票の最新版が出てからと思っていたのだ。
でも、資源評価票の詳細版が全然アップされない。
遅くとも12月には出るという話だったのに、何か問題があったのだろうか?
まあ、マイワシに関しては状況が劇的に変わったわけではないので、
去年の評価票のデータを元に話を進めることにする。

他のサイトにも書いてあることを書くのは時間の無駄なので、
最低限ここで紹介するサイトには目を通しておいて欲しい。
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/hiki/?%A5%DE%A5%A4%A5%EF%A5%B7%BE%F0%CA%F3
これが次回までの宿題。

これらのサイトの内容は理解していると言うことを前提に、
今まで語られてこなかった部分の解説をしていこう。

TAC制度における説明責任

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このブログでは、繰り返しTACとABCの乖離を問題にしてきた。
http://kaiseki1.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/blosxom.cgi/diary/200512011622.writeback
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2006/08/post_31.html

この機会に、ABCについておさらいをしよう。
ABC(生物学的許容漁獲量)は、これ以上の漁獲量は乱獲になるという閾値であり、
漁獲量をABC以下に抑えることが、資源管理の目的となる。
乱獲の線引きをするのは、技術的にとても難しい。
これ以上は乱獲、これ以下なら安全というような乱獲の閾値を一意的に決めるのは不可能だ。
そこで、不確実性を考慮するために、2種類のABCを計算するのが一般的だ。
ABCLimit:これ以上の漁獲量は明らかな乱獲という閾値
ABCTarget:これ以下の漁獲量なら、明らかに安全という閾値
2つのABCを利用することで、資源がどのような状態で利用されいてるかが一目瞭然になる。
信号

ABCLimitを越える漁獲量は、明らかな乱獲なので絶対に避けなくてはいけない→赤信号
ABCLimitとABCTargetの間は乱獲の疑いがある領域であり、
資源の安全のためには避けるべきである→黄色信号
ABCLimit以下の漁獲量は持続性に問題がないので、OK→青信号
漁獲量をABCLimit以下に抑えつつ、収益を上げることが資源管理のゴールになる。

マイワシに限らず、ほとんどの魚種で、「社会・経済的な要素を考慮して」
ABCLimitをはるかに超過する漁獲枠(TAC)が設定されている。
自分で乱獲の線引きをしておいて、乱獲を許可しているのだ。
こういう状態を避けるために管理をしているのであり、本来はあってはならない状況だ。
もちろん、漁業が経済行為である以上、社会・経済的な考慮は必要だし、
場合によってはABCを超過する漁獲量も一時的に許されるかもしれない。
ただし、大切な国の財産を切り崩す以上、それなりの説明はあってしかるべきだ。
ABCについては、資源評価票で公開されるようになってきたが、
TACの決定は全くのブラックボックスのままである。
漁獲量の規制に使われるTACの決定プロセスが秘密な現状では、
説明責任を果たしているとは言えない
最低限の説明責任を果たすためには、以下の3つが必要だろう。
1)どのような「社会経済的要因」によってABCが守れないのかを明らかにする
2)いつまで、どれぐらいABCを超過する予定なのかを明らかにする
3)その結果、資源と漁業はどうなるのかというビジョンも示す

俺のことをABC原理主義者と揶揄する向きもあるようだが、
俺は「ABCは絶対的に正しくて、神聖にして犯すべからず」とは思わない。
明確な理由と、それなりの将来展望があるならば、
漁獲量がABCを一時的に超えたとしても問題ないと思っている。
ただ、具体的な理由を明らかにせずに、慢性的にTACがABCを越えている現状は論外だろう。
社会経済的理由というのは、水戸黄門の印籠ではないのだ。

ある水産関係者さんのコメント

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ある水産関係者さんから、重要なコメントをいただきました。
現在の漁業の問題がわかりやすく整理されていて、勉強になります。
一人でも多くの人に目を通してもらいたいので、新たにエントリーとして掲載しました。

現在の漁業について厳しい内容も含まれていますが、
今後も漁業という産業を維持していくためには、
避けて通ることはできない問題だと思います。

勝川さん、匿名さん、レス有り難うございました。今回はヒマにまかせて少し戯れ言を書いてみました。

1.漁業者と遊漁者
 漁業者と遊漁者の関係と言うのも、日本の漁業制度を考える上で根本的な問題かも知れません。そもそも日本の法制度では、基本的に水産動植物(一部を除く)は無主物とされ、その無主物を採捕するために漁業を営む権利は漁業法によって規定されています。遊漁者の遊漁を行う権利は基本的に自由で制限のみ(漁法等の制限)が都道府県漁業調整規則で規定されています。つまり、同じ無主物を採捕するのでも、漁業者には大規模なまき網、刺し網や延縄等の漁具使用、海面の占有と言った様々な手段・権利が認められる一方、遊漁者には竿釣り、手釣り、たも網など、ごく限られた簡単な漁具の使用が認められているのみで、トローリングは殆どの県で禁止しているほか、船釣りを禁止している県もあります。
 このように、日本の法律では、漁業者と遊漁者の水産資源の利用(無主物の採捕)に対し一定の交通整理が行われ、法律が制定された当時(S20~30年代)は、資源も比較的豊富にあったことや、漁業(採捕)の技術も未熟だったため、法律が有効に機能していたと考えられます。
 ところが、その後、資源の急激な減少とともに、遊漁者の装備(ボート、漁具など)が漁業者並みに発達したほか、所得の向上や余暇時間の充実によって遊漁人口も増加し、当時制定された法律だけでは、漁業者と遊漁者の調整や効果的な資源管理が出来なくなったというのが実情でしょう。
 このような事態を打開するにはどうすればいいか(正確に言えば、良かったか)? その答えが、既存の漁業法体系を改め、漁業者にも遊漁者にも受益者負担の概念を適用し、両者とも資源管理(増殖?)や行政サービスに対し、一定の経費を負担する制度を導入し、負担に見合った妥当な権利を与える一方、権利の行使に対しては合理的な規制・制限(遊漁であれば採捕尾数制限、漁業であれば操業制限、モニタリングなど)を整備すべきと考えます(遊漁ではライセンス制か?)。特に、権利行使への規制・制限については、ザルとならないように監視体制を従来の性善説に立脚した手法ではなく、最初から違反の発生を前提とした性悪説に立脚した手法を採り入れることが不可欠と思います。具体的には、HACCPの取締り版のような監視体制を考えていく必要があるでしょう。もちろん、モラルの低い一部の遊漁者を念頭においた毅然とした対策も同様です。

2.漁業は経済活動
 そもそも私は、漁業といえども他のビジネスと同列の一つの経済活動と考えるべきだと思っています。確かに、「匿名さん」がおっしゃるような磯掃除等のほか、ヒラメ・マダイなどの種苗放流といった公益に関わる活動をしていることも事実ですが、これらは必ずしも法律上の正式な義務となっていない上、せっかく漁業者が放流した種苗も無主物となって、何の対価も払っていない遊漁者に合法的に採捕されてしまうというような法制度の問題もあり、これらの活動が漁業者の権利を裏付ける義務になっているとは言い難いと考えます。
 水産基本計画の根拠となる水産基本法の第2条には「水産物は健全な食生活その他健康で充実した生活の基礎として重要なものであることに鑑み、将来にわたって、良質な水産物が合理的な価格で安定的に供給されなければならない。」と規定されておりますが、面白いことにこのフレーズには主語?(行為者)が記されていません。普通に考えればこのフレーズの主たる行為者は漁業者のハズですが、「漁業者」が行為者となるフレーズはこの部分を含む水産基本法のみならず、水産基本計画でも全く見当たりません。そもそも水産基本法自体、「国及び地方自治体の責務等を明らかにすること」が目的のため、無くて当然といえばそれまでですが、一方で、第8条には、「消費者は、・・・積極的な役割を果たすものとする。」といった具合に消費者の役割について規定しているのに、漁業者の責務等について規定しないのは全くの片手落ちとしか思えません。
 常識的に考えて、漁業者といえども、まずは経済的にペイすること大前提であり、経済的な基盤を確保した上で適切な資源管理や公益的な活動を行うモチベーションが発生すると思います。言い換えれば、経済的にペイしない状況下では、適切な資源管理は期待できないと言うことです。実際、沿岸・沖合・遠洋において資源管理が適切に機能していない現在の状況は、多くの漁業者の苦しい経済状態を象徴する現象であり、これに対する国の施策は、残念ながら、資源管理(取締りを含む)にお目こぼしをし、補助金等のカンフル剤によって漁業者の延命を図る消極的な手法に過ぎず、これでは資源の回復が望めないどころか、勝川さんのおっしゃるように限りなく資源枯渇に向かうのが関の山と考えます。
 では、その打開策として具体的に何が必要か? 可能性はともかく、言うまでもなく、根本的に現在の施策に対する発想転換が不可欠です。具体的には、現在のように資源水準を無視しつつ多額の税金まで投入し、単に実現不可能なスローガンを並べ立てただけの妄想的施策を改め、漁業の規模を少ない資源量に見合ったものに縮小するとともに少ない資源から利益を最大限導き出せるような流通・加工のあり方を考える、いわゆるリストラが避けて通れない道になると考えます。リストラの是非については、多々あると思いますが、民間会社や公的機関でも実施される現状を考えれば、もはや漁業の世界を例外扱いするのはどうかと思います。特に、国民の財産である水産資源が枯渇するかどうかという問題を考えれば、その必要性はなおさらと考えます(漁業を票としかみない人達には理解されないでしょうが・・・)。

3.反国益の元凶
 漁業については、様々な公益が指摘される中で、それとは正反対に直接国益を損ねる活動を多々行っている事実も見逃せません。その代表的なものが、マグロをはじめとする国際約束に対する違反事件です。ただ漁業者のみならず日本人一般の感覚として、国際約束違反に対するあまりにも鈍感な意識が存在していることも無視できません。ミナミマグロ事件の時もそうでしたが、漁獲枠の削減に対し、「マグロが食べられなくなる」とか「マグロが値上がりする」といったことを心配する日本人は多数いても、「日本人の国際信用が大きく損なわれた」と真面目に考えた人がどれほどいたでしょうか? マグロだけではなく、ロシアに捕まった底引き漁船やカニ漁船の場合も同様です。ロシアの世論調査で日本との関係を悪いと考える理由の2番目に「日本漁船の違反事件が多いから」があげられたとの報道がありましたが、この報道を聞いてどれだけの日本人が残念に思ったでしょうか? ましてや漁業者はどう感じたでしょうか? 税金や施策で手厚く保護されているはずの漁業が、実は、日本人全体の国際信用といった正に国益を損ねている事態を、日本国民として黙って見逃すべきではないでしょう。しかしながら、マグロ事件の際、水産庁はおろか、当事者のマグロ漁業団体まで、国際信用を損ねたことに対する日本国民への謝罪が一切ありませんでした。豪州の畜養マグロの増肉係数にケチをつけるだけで・・・。正に、「怒髪天をつく」思いがしました。
 長くなりましたので、続きは次回と言うことで・・・。see you!

ミナミマグロの報道

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http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/20061218/20061218_013.shtml

最終的に確認した文章がそのまま掲載されたのでグッド。

ミナミマグロ問題に関しては、漁業交渉の最中に情報を規制するのはしかたがないだろう。
弁護人は、被告の不利になるような情報を隠す義務があるのと同じこと。
すでに、今後5年間はTACの半減が確定したのだから、これ以上情報を隠しておく必要はない。
また、漁業交渉の場所(CCSBT)で議論されていた内容を日本国内で公開しても、
ミナミマグロの交渉には何ら影響を与えない以上、情報公開をすべきだろう。

ミナミマグロ漁業の管理は難題であったことは間違いない。
最初からきちんと取り組んでいれば、少なくとも国内問題で収まったはずだ。
知らぬ存ぜぬで過剰努力量の問題を先送りし続けた結果、
国際問題にまで発展させてしまい、結果として国益が大きく損なわれた。
すでに国際問題としては決着がついた今だからこそ、
国内問題として、しっかりと向き合う必要があるはずだ。
漁業の構造的な問題は何一つ改善されていないのだから、
きちんとした対策を講じなければ、同じことが繰り返されるだろう。

ミナミマグロ不正漁獲の原因を推理する

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なぜミナミマグロは不正漁獲をしてしまったのか?
当事者の声が全く聞こえてこないので、
部外者がそこに至るストーリーを想像してみた。

CCSBTのTAC管理によって、1985年から1990年の5年間で漁獲量を7割削減することになった。
油代がかさむ遠洋漁業では、これでは経営が成り立たないだろう。
船に多額の資本投資が必要な遠洋漁業は、
経営が厳しいからと言って船を出さないわけにはいかない。
そういうなかで、1989年までは漁獲枠を守っていたわけで、
並大抵の努力では無かったはずだ。
90年代にはいって、畜養によってマグロの値段が下がると、
経営が破綻し、不正漁獲をせざるを得なくなった。
そして、ずるすると不正漁獲を続けるうちに資源が減ってきて、
現在に至るわけだ。

では、漁業者に何が出来たか?
おそらく、何も出来なかっただろう。

マグロ漁船は減価償却が長く、きわめて長期的な投資になる。
1980年代前半に、5年後には漁獲枠が7割削減されると予測できたはずがない。
漁業者が今後も現状の漁獲が出来ると考えて設備投資をするのは無理からぬ事だ。
しかし、日本が国として国際機関CCSBTの管理を受け入れたことで、
漁獲量は厳しく規制されることになった。
CCSBTの管理を受け入れたのは漁業者ではなく日本国なのだから、
国として漁業者の漁獲量削減をサポートをする義務があったはずだ。
サポートをする気がないなら、国際的な管理機関などに入るべきではなかった。
厳しい規制を課すにもかかわらず、水産庁は漁業のリストラを充分にサポートしなかった。
その代わりに、漁獲の取り締まりもしなかった。
ミナミマグロの漁獲量の集計は、船からFAXによる自己申告だけ。
オブザーバーがいるのは全漁船の10%程度なので、ごまかしたい放題だったわけだ。
実行不可能な規制を押しつけておいて、サポートも取り締まりもしない。
漁業者の選択肢は座して死を待つか、不正漁獲をするかしかない。
彼らが後者を選ぶのは必然といえるだろう。
不正漁獲という抜け穴がなければ、90年の時点でミナミマグロ漁業は社会問題になったはずだ。
漁業者と水産庁でもめただろうが、国内問題として処理されて、
結果として、国際的な信用と漁獲枠を失うことは無かっただろう。
また、不正漁獲が無ければ、今頃は資源がそれなりに回復していた可能性が高い。

水産庁の資源管理への姿勢は、「金は出さないし、口も出さない」で一貫している。
資源管理に必要な費用をケチった結果、漁業者に不正漁獲を余儀なくし、
ミナミマグロの過剰努力量という国内問題を国際問題にして、
日本の漁獲枠と国際的信用が失われてしまった。
ミナミマグロの不正漁獲問題の本質はここにあると俺は思う。
来年からミナミマグロのTACは6000トンから3000トンに半減される。
TACは半減だけれども、
実際は10000トン獲っていたのだから、実漁獲で見れば7割削減になる。
当然のことながら、これでは生活が成り立つはずがない。
今回も何のサポートもしないなら、
別のマグロの不正漁獲が増えるだけだろう。

ミナミマグロにこだわる理由

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国内の動きを見ていると、責任の所在を曖昧にしたまま、
不正漁獲問題を過去のものにしたいようだ。
「同じ日本人なのに漁業者をいじめたら可哀想」
「他の国だってやっていることで日本だけが悪いわけではない」
「今回の漁獲枠削減は懲罰ではなく、日本が進んで範を示したのだ」
こういった発言ばかり繰り返されている。
苦い過去をうやむやにすることが真の意味で漁業のためになるはずがない。

ミナミマグロ不正漁獲は、すでに国際問題に発展している。
国内世論さえごまかせればそれで良いというレベルではない。
特に痛いのが、世界の研究者からの信用を失ったことだ。
国際交渉の場では、サイエンスという土俵で国益をかけた戦争が行われている。
ミナミマグロの管理を巡っては日本とオーストラリアが泥仕合になってしまったので、
中立な研究者(凄いメンツだよ!)を呼んで調停をしてもらっていたという経緯がある。
2国間の戦争が泥沼になったので、多国籍軍にPKOをしてもらっていた感じだ。
中立な研究者達が日豪の間を取り持って、
5年もかけて管理の枠組みをようやく完成させたと思ったら、
その基礎となったデータがねつ造だったいうのだから、しゃれにならない。
今回の不正行為は、多国籍軍の陣地にタマを撃ち込んだようなものだ。
また、国益のために最前線で頑張っていた日本の研究者の多くは、
可哀想に不正漁獲の事は知らなかったらしい。
彼らにしてみても、ヤリキレナイ川だろう。
敵に塩を送り、味方の戦意を失わせ、中立軍を敵に回す。
この愚行は、ミナミマグロ戦線が壊滅しただけではなく、
他の国際資源の戦線を著しく後退させる可能性がある。
ハッキリとした因果関係は見えないかも知れないが、
国際的な信用の低下が大きな損失であることは疑いの余地がない。

ミナミマグロ漁業に関しては、漁獲枠を失った、国際的な信用も失った。
漁業としては失うものはもう無いだろう。
だからこそ、この事例を糸口に日本漁業の構造的な問題に向き合うべきなのだ。
● なぜ、不正漁獲をしてしまったのか?
● どうしていれば不正漁獲は防げたのか?
これらの2点を整理して、再発を防がないといけない。
このブログでミナミマグロ問題を扱っているのは、
別に漁業者バッシングをしたいわけではない。
むしろ、犯罪者扱いをされて漁獲枠を取り上げられる漁業者を少なくしたいのだ。
そのために、問題の所在を明らかにした上で必要なサポートを明らかにする。
それが漁業を良くするためには必要な作業だろう。
この一件をうやむやにしていたら、同じようなことが繰り返されるだろう。
こういう事を繰り返していたら、
世界中の漁場から日本漁船が閉め出されても文句は言えない。
そういう状況だけは防がないといけない。

ミナミマグロの不正漁獲量の推定値

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CCSBTのStock Assessment GroupのレポートのP51-53に不正漁獲量の推定に関する記述がある。

マグロの輸入にはしっかりとした記録が残っている。
産地偽装はあるかも知れないが、少なくとも国外から来たマグロの量は正確にわかる。
市場で流通したミナミマグロの量から輸入量を引けば、日本が漁獲したミナミマグロの量がわかる。
日本が報告した漁獲量と市場統計から推定された流通量には大きな開きがある(下図a)。

maguro11.png

マグロは漁獲されてから、市場に流通するまでに時間遅れがある。
その時間遅れを補正したのが図bになる。

流通量から逆算された漁獲量と報告された漁獲量の差から、不正漁獲量を推定できる。
これらがすべて延縄(Long Line)由来だと仮定すると、不正込みの延縄漁獲量は次のようになる。

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いくつかのシナリオがあるが、いずれも大幅な不正漁獲となっている。
一時的に減少した漁獲量が90年以降上昇したという結果は全てのシナリオに共通する。

ミナミマグロの資源解析は、日本の延縄のデータを利用して行われていたので、
今後はこの補正されたデータをもとに解析を全部やり直しになるだろう。


ミナミマグロの産卵親魚量の変遷

maguro12.png

これはどう見ても減らしすぎだろう。
資源を持続的に有効利用するためには、親魚の回復を最優先すべきだと思う。
親魚量は50万トンぐらいは欲しい。
この資源はちゃんと保護する必要があることは間違いない。


マグロの乱獲許しません

平成17年度漁業白書トピックス・・・

ミナミマグロ不正漁獲問題

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日本の漁業は、資源管理が出来る状況にない。
強引にTACを下げたところで、資源管理は難しいだろう。
おそらく、不正漁獲が増えてますます手がつけられなくなるだけだ。
最近、なにかと話題のミナミマグロはその好例だろう。

ミナミマグロは、日本および豪州の乱獲で80年代に入ると資源が急減し、
目に見えて魚が減ってきた。
そこで1985年から厳しい漁獲量規制が開始された。
日本の漁獲枠は、2万トンから6千トンへと、5年間で7割削減した。
その後も6千トン前後の漁獲枠が維持され続けた。

ミナミマグロ国別漁獲量
minamimaguro.png

厳しい漁獲枠が設定された結果、大幅に減船をすることになった。
減船対象の漁船を廃船にしないで台湾などに転売した結果、
管理に参加していない国での漁獲を増やす結果となった。
結局、転売されたマグロ漁船は日本の資金で廃船にすることになった。
最初から、廃船にしておけば良かったものを・・・

かなりの減船があったにもかかわらず、
残された日本のマグロ漁船が生計を立てるには、漁獲枠は少なすぎた。
その結果が、漁獲量の不正報告だ。
国内のマグロの流通量は、明らかに漁獲枠よりも多かった。
オーストラリアがこの点を追求してきて、水産庁も渋々調査をしたら、
やっぱり多く獲っていたことが明らかになった。

2005年10月に開催されたCCSBT年次会合で、オーストラリアが行った日本の市場調査で、漁獲割当量を大幅に超えるミナミマグロが日本に流通している可能性が指摘されました。これを受け、2005年の年末に水産庁は日本船の水揚量の調査を実施したところ、2005年の日本船が1500トンを超える漁獲枠超過をしていたことが明らかになりました。
http://www.wwf.or.jp/activity/marine/news/2006/20060331.htm

日本はマグロの違法操業(IUU)に対して非常に厳しいことを言ってきた。
「国際的なルールを遵守しない漁業の根絶に向けた取り組み」とかいって、
自分でもルール違反をしていたのだから、世話はない。

水産庁プレスリリース「正直、すまんかった」
http://www.jfa.maff.go.jp/release/18/032902.htm

水産庁としては、「ごめんなさい、もうしません」で逃げ切る構えだったが、
そうは問屋が卸さなかった。
ミナミマグロは資源が悪化しており、漁獲削減が必要な時期だったので、
過去のこともふくめて、責任が追及されることになった。
http://nzdaisuki.com/news/news.php?id=2535

オーストラリアの漁業管理局のRichard McLoughlin氏は8月1日に行われた非公式会議で、「6000トンの捕獲規定に対し、日本はこの20年間にわたって12000トンから20000トンのマグロを密猟している」と述べた。

毎年、漁獲枠の倍の漁獲をしつつ、不正報告でごまかしていたと言うことだ。
全体の漁獲枠を守るように不正報告をするのは、個々の漁業者に出来ることではない。
組織ぐるみ、国ぐるみで、不正を働いていたと考えるのが自然だろう。

国内ではこの件の報道は少ないが、海外ではかなりのニュースになっている。
http://www.google.co.jp/search?hl=ja&q=Richard+McLoughlin+tuna+japan+stolen+%242+billion

http://www.abc.net.au/news/newsitems/200608/s1713515.htm
 日本は、2億ドルもの魚を国際社会から盗みながら、15年間も会議に何食わぬ顔をして参加していたのだ。
Essentially the Japanese have stolen $2 billion worth of fish from the international community and have been sitting in meetings for 15 years saying that they’re pure as the driven snow.

こういう風に言われても仕方がないだろう。
ただ、ミナミマグロの国際会議に参加した全ての日本人が実態を知っていたわけではない。
実は俺も1回だけCCSBTの会議に参加したことがあるが、違法漁獲なんて知らなかった。
資源管理の枠組みを一緒に考えようというお誘いが遠水研からあったのだ。
Ana Parmaとか、Hilbornとか豪華なメンツと資源管理の議論ができるのは魅力的だったが、
タイミングが合わなくて、結局はお流れになってしまった。

ミナミマグロの資源評価は、日本の延縄の漁獲統計をつかって解析を行ってきたのだが、
それが全く当てにならないとなると、
今まで研究者が積み重ねてきたものは、全ておじゃん。
大勢の人間が5年もの歳月をかけて、
ようやく管理方式が完成しようという矢先に、これではゲンナリしてしまう。
「漁獲量を減らしたのに、なんか増えないなぁ」と思っていたのも納得。
これでは、増えるわけない。

今回の一件で、日本の信頼はがた落ちなワケだ。俺個人も、かなり失望した。
懲罰的な措置として、来年から日本のみ漁獲枠が3000トンに半減されることになった。
厳しい措置と思うかもしれないが、関係者によると「ゼロにならなくて良かった」とのこと。
国際社会は違法にとても厳格で、罰則も半端ではない。
明らかな違法行為が組織ぐるみで行われていたのであれば、
厳重なペナルティーは仕方がないだろう。

この違法行為によって、国益が大きく損なわれることになった。
「やっぱり日本は信用ならない」ということで、日本漁業のイメージダウンは甚だしい。
捕鯨を初めいろいろな問題に影響を与えることは確実だろう。
どこの国の政治家も、良い格好をしたいが、自国民に厳しいことはいえない。
発展途上国を叩くのは、南北問題に進展して結局は墓穴をほることになる。
自分たちと食文化が違う先進国の日本漁業は、絶好のターゲットなのだ。
多くの国が日本漁業を叩こうと目を光らせている状況では、
この手のチョンボは絶対に避けなくてはならなかったはずだ。
国益という観点からすると、ミナミマグロの漁獲枠削減どころではない失策だ。
不正をするなら絶対にバレ無いようにやるべきだし、
それが出来ないなら不正をすべきではない。
ネットで公開されている流通統計から過剰漁獲が丸見えなんて、脇が甘すぎる。
日本はカウンターパンチで、豪州も過剰に獲っているというネタを出したらしい。
日本に入ってくるミナミマグロの量が豪州のTACよりも多いのだが、
豪州は畜養で太らせたからだと言い張って、肝心なデータは出さずに華麗にスルーしたらしい。
結局、証拠不十分で、おとがめは無し。

水産政策審議会でも、ミナミマグロの不正漁獲に関するネタがでている。
http://www.jfa.maff.go.jp/iinkai/suiseisin/gijiroku/kanri/024.htm

 しかしながら、相も変わらぬ輸入の増大、また増大による魚価低迷に何らの変化がございませんし、沖の不漁に加えまして、御承知のとおりの燃油の高騰によりまして、一層経営が圧迫をされている中で、勢い、各船が単価の高いみなみまぐろ資源への依存体質から脱却することができなかったことが、今日の省令改正に至ったことは、私たちとしてみてもちょっと残念であります。
 
 なお、本省令でとられておる措置が日本の漁業者のみならず、今おっしゃられましたように外国のみなみまぐろの漁業者、蓄養漁業者及び加工販売業者に対してもぜひ適用されるように、御尽力をお願いしたいものだと思っておるところでございます。

これは日鰹連関係者のコメントなのだけど、危機感ゼロ?
不正報告の防止を強化する省令改正が悪いみたいな言い方だな。
挙げ句の果てに「海外もちゃんと取り締まれ」とか言って、
とても不正がばれて形見が狭いようには見えない。
「日本の漁業全体に迷惑をかけてごめんなさい」と謝るところだと思うのだけど。

ミナミマグロの漁業者が違法行為をしてしまった背景には、
資源管理による漁獲枠の減少があるだろう。
漁獲枠では生活が成り立たないから、違法漁獲をせざるを得なかった。
彼らとしても苦渋の選択だったはずだ。
資源の生産力と漁獲努力量が不釣り合いな中で、
漁獲量だけ締め付ければこうなるのは当然だろう。
漁獲枠の範囲で生活が出来る規模まで漁業を縮小する必要があったのだ。
税金をつかってでも、漁業者がミナミマグロから撤退する道筋をつけるべきだった。
それをしなかったから、違法行為をせざるを得ない状況を作り、
結果として国益が大きく損なわれたのだ。
来年から、ミナミマグロの漁獲枠が半減されることになった。
不正漁獲を含めて12000トン獲っていたところを、
3000トンに減らすのだから1年で4分の一に減らすことになる。
個々の経営体の痛みのみを対価にしては資源管理を進めるならば、
不正漁獲問題は再発するかもしれない。
再び不正がばれたら、今度こそ漁獲枠はゼロになるだろうから、
ここでしっかりと手を打つ必要がある。

スケトウダラ続報

[`evernote` not found]

平成18年度の資源評価票(案)が一般公開されました。
http://abchan.job.affrc.go.jp/18pbcom/index.html

スケトウダラ日本海北部系群はこれですね。
http://abchan.job.affrc.go.jp/18pbcom/html/1810.html

管理方策のABCLimitとABCTargetを見てください。
それぞれ、11000トンと8900トンです。

去年のABCLimitとABCTargetは、
それぞれ11900トンと7700トンでした。
http://abchan.job.affrc.go.jp/digests17/html/1710.html

資源量推定値は、去年が209千トンで今年が147千トンです。

これらを表にまとめるとこんな感じ。

去年 今年
ABCLimit

11900

11000

ABCTarget

7700

8900

資源量 209000

147000


資源量は3割減ったにも関わらず、
ABCLimitは去年と殆ど同じで、ABCTargetに至っては増えています。
このことからもわかるように去年のABCと今年のABCには整合性がありません。
目標を下方修正したからです。
もし、目標を下方修正していなければ、ABCはどうなったでしょうか。
今年のダイジェスト版の管理方策の下から2番目に「SSBの回復」というシナリオがあります。
これが去年までの目標です。
目標を下方修正していなければ、ABCLimitは5900トンとなりほぼ半減です。
ダイジェスト版には目標の変更に関する記述が無いので、ここに書いたようなことは伝わりません。

殆どの人は、ABCの数字しか見ません。
評価票を時系列を追って眺めるようなABCオタクにしか管理方策の変更がわからない。
また、管理方策が変更されたことがわかっても、どこがどう変わったのかが読みとれない。
こういう書き方では、資源の現状が伝わらない。

目標の変更というのはとても大切なことです。
やむを得ず目標を変更する場合には、
どういう理由で、どこをどう変えたのか。変えてなければどうなったのか。
そういったことを明記する必要があるでしょう。
詳細版に関しては、目標の変更について記述したバージョンがブロック会議で採択されました。
現在までは、会議で承認されたバージョンから、大幅な変更は無さそうです。
最終的なバージョンが公開されるまで、慎重に見守ろうと思います。

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