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日本の資源管理の特徴をまとめてみよう。

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TAC制度

日本のTAC制度は、米国の資源管理を手本にしている。

どうせ手本にするなら、管理が上手くいっている国を手本にすればよいのに。

水産庁の米国好きに付ける薬が無いですな。

日本のTAC制度と米国のTAC管理の最大の違いは、TACの設定根拠があるか、無いかだろう。

米国は科学的なアセスメントをかなり厳格にまもっている。
一方、日本のTAC設定は役人の胸先三寸であり、説明責任が完全に放棄されている。

日本のTAC制度には合理性がまるでない。

大本営の中の人には、中の人なりの言い分もあるだろうが、

説明責任を果たしていない以上、何を言われても自業自得だろう。
「理由は言えないけど信用して」と言われても、説得力がないのですよ。

資源管理型漁業(沿岸漁業の自主管理)

一方、日本の資源管理型漁業はどうだろうか。

こちらは基本的にはボトムアップである。

漁業者があつまって、「とにかく出来ることをやろう」ということで話し合いをする。

「資源をどのような状態にするか」ではなく、「人間がどれだけ我慢できるか」で、管理の内容が決まる。
資源管理と言うよりは漁業調整と呼んだ方が現実に近いだろう。
(漁業調整だからって、駄目だと言いたいわけではない。漁業に役立てばそれでよいのです。)

管理の内容を決めるのは、資源ではなく、漁業者なのである。

もし、漁業者が資源の維持に必要な我慢を出来る状況にあるなら、管理は成功するだろう。

逆に、そうでないなら、管理は機能しないだろう。



実効力を高める必要条件は、ここにまとめたとおりである。

自主管理の必要条件

1)生産力が高い資源を自分たちだけで囲い込める

2)コミュニティーに個人の利益よりも全体の長期的利益を重んじるリーダーがいる

3)長期的な視点から、漁業者にものが言える現場系研究者がいる

4)資源の壊滅的な減少を経験

1,2,4は自主管理の実効性を高めるために必要であり、

3は自主管理に合理性を与えるために必要である。

上手くいっている自主管理の陰には、熱心な水試職員が必要だ。

漁業者コミュニティーの話し合いに参加して、影響を与えていくためには、

人間的にも空間的にも浜との距離がちかくなくてはならないので、大学では難しいだろう。



上の4つの条件は、かなりハードルが高い。
4つの条件がすべてそろう確率はかなり低いのである。
自主管理の合理性は、漁業によって大きく異なるが、総じてあまり高くはない。


俺の考えをまとめると下のような図がかける。

Image200804152.png

まあ、こういうのは個人の考えを図示しただけで、これが正解って言うものは無いと思う。
自分の意見をまとめたり、他人に伝えるのに役立つから、使っているだけだ。
別の人が別の視点から見れば違う図になるだろうし、それでよいのだ。

世界の漁業管理を2つの軸で整理しよう

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日本では、「日本独自の管理」と「欧米の管理」の二元論で語られることが多い。
ステレオタイプなイメージはこんな感じだろう。

欧米スタイル→トップダウン(上意下達)、漁業者無視、科学絶対視、漁村崩壊、大規模企業独占
日本スタイル→漁業者の自主性、話し合い、ボトムアップ、きめ細かな規制、漁村繁栄

この考え方のおかしな点は、日本以外をひとくくりにしていることだ。
欧米にだって、漁業者を無視している国もあれば、そうでない国もある。
欧米と一口に言ってもその管理制度は千差万別であり、
「欧米の制度」とひとくくりに出来るようなものではないのである。
「資源管理は国それぞれで、複雑である」で終わりにしては単なる思考停止なので、
もう一歩進んで、欧米の管理を2つの軸に沿って分類してみよう。

一つは、合理性・非合理性という軸。
もう一つは、ボトムアップ、トップダウンという軸である。

合理性・非合理性

合理性・非合理性については、2つの条件で判断できる。

あ)科学的アセスメントに基づいて乱獲リスクを管理しているか
い)産業の発展を阻害する不健全な競争を抑制しているか

あ)科学的アセスメントに基づいて乱獲リスクを管理しているか
日本以外の先進漁業国はおおむね条件を満たしている。
先進国では、乱獲を放置していたら、国民が許さないから、
行政もしかりとした対応をとらざるを得ない。
科学的なアセスメントをしっかりやって、その結果に従うことで、
資源の持続的利用への説明責任を果たしている。

い)産業の発展を阻害する不健全な競争を抑制しているか
譲渡可能な個別漁獲枠制度を導入したノウルェー、アイスランド、NZ、AUSに比べて、
オリンピック制度に固執し続けた米国・カナダは非合理的である。
実際に、これらの国の漁業管理は、前者ほどは上手くいっていない。
米国は自由競争を国是とするために、予め枠を配分して既得権化することに消極的であった。
結果として、米国の漁業は混乱し、甚大な悪影響を与えてしまった。
ただ、米国は自国の失敗を認めて、ITQへの方向転換を表明している。
やるとなったら、とことんやるお国柄だけに、どこまで突っ走ってくれるのか実に見物である。
このあたりの経緯については↓を読んでください。
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2007/09/itq_4.html

ボトムアップ、トップダウン

漁業者の意向を無視して、行政機関が方針を決めて、実行してしまうのがトップダウンである。
NZ, AUS, 米国がこのスタイルだ。
これらの国の漁業者は「行政は俺らの意見など聞きやしない」と、諦め顔である。
ただ、トップダウンだからといって、これらの国の行政官が好き勝手に裁量を振るっているわけではない。
納税者全体への説明責任を重視して、漁業者の意向よりも科学的アセスメントを重視しているのだ。
漁業者の意向は無視されていても、日本のTAC制度のようにお上の胸先三寸ではないのである。

国民の大多数が漁業に関連しているアイスランドや、漁業者の政治力が強いカナダでは、
より漁業者よりの政策を採用している。

漁業者の意向を全面的に採用しているのが、ノルウェーである。
ノルウェーの資源の多くは国際資源であり、ノルウェーの漁獲枠はEUとの国際交渉で決まる。
ノルウェー国内で沖合漁業と沿岸漁業に漁獲枠を配分するのだが、
その配分比を決めるのは、毎年行われる漁業者の代表の話し合いである。
漁具漁法の規制なども、この漁業者間の話し合いで決定する。
漁業者が合理的な選択をする手助けをするのが研究者の役割であり、
漁業者の決定を法制化し、監視・取り締まりをするのが行政の役割だそうだ。

俺はこの話をきいて、たまげてしまった。
漁業者の話し合いで、漁獲枠の配分が決まるとは、にわかには信じられなかった。
「話し合いがまとまらなかったら、どうするの?」とノルウェーの行政官に質問をしたら、
「その時は、放置しておく。そういう事例もあったが、2年後には漁業者が結論を出した」とのこと。
彼の話の端々に、漁業者の意思決定能力への揺るぎない信頼を見て取ることができた。

まとめ

世界の資源管理を図にするとこんな感じになるだろう。

image08041101.png

次回は、日本のTAC制度と資源管理型漁業が、この図の何処に来るかを議論しようと思う。
読者の皆さんも、日本の資源管理の位置付けを考えてみてください。

日本独自の管理に関する考察の予告&宿題

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日本独自の資源管理があるから、欧米のまねごとはけしからんと言う人が多い。

では、日本独自の資源管理とは何なのだろうか。

また、それは本当に期待できるのだろうか。

日本に独自の漁業文化があるというのは、その通りだろう。ただ、独自の漁業文化があるからといって、他国から学ばなくても良いという訳ではない。漁業がなすすべもなく衰退していて、国内にまともな処方箋がない現状では、なおさらである。日本の漁業経済学者は、「日本漁業は極めて独自であるから、海外の資源管理の成功事例は取り入れられない」と言いつつ、日本独自の管理とやらを東南アジアなどに必死に宣伝している。どうして、他国の方法論は日本では使えないのに、日本の方法論は他国で使えるのだろうか。成果を出している管理制度の輸入を拒みながら、成果が出てない自国の管理制度を輸出しようとするのは、おかしくないか?

日本独自の管理を信奉する人間は、日本独自の制度を観念的に賛美しているだけだ。
日本独自の資源管理を擁護したいならば、次の2点を明らかにした上で、「日本には独自の管理システムがあるから、今のままでも日本の漁業は大丈夫」ということを示さなくてはならない。

1)日本独自の管理とは、具体的にどういうものを指すのか?

2)その日本独自の管理によって、漁業はどのような方向に進むのか?

俺は1)、2)を自分なりに示した上で、日本独自の管理システムの問題点と改善策を論じようと思う。その際の、前提知識として下のエントリーを読んでおいてください。

http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2006/10/6_1.html
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2006/10/7_1.html
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2006/11/post_59.html
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2006/11/post_60.html
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2007/10/post_204.html
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2007/10/post_205.html
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2007/10/post_207.html
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2007/10/post_208.html
 

VistaはMeを超えるのか?

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Vistaに見切りをつけたMS、「Windows 7」登場は来年か
ロイターの報道によると、ゲイツ氏が実際に言ったのは、Windowsの次期デスクトップバージョンである「Windows 7」(開発コード名)が「来年ごろ」にリリースされる見込みだということだ。http://www.atmarkit.co.jp/news/200804/07/windows7.html

Microsoftは、見切りを付けるのが早いですね。よっぽど、Vistaは不評なんだろうな。
ノートパソコンを、ダウングレードサービスでXPにしておいて正解だった。
今更、重たいOSなんてつかいたくないです。
FirefoxとAtokが走って、軽くて、安定していれば、言うこと無し。

ベニズワイの個別割当に関するコメントへの返答

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漁業に携わる当事者からコメントをいただきました。
なんと、日本初の個別漁獲枠割当を導入した境港の方だそうです。
得難い機会ですので、エントリーとして独立させて、返答コメントをしたいと思います。

境港のベニズワイガニ漁業(大臣許可かにかご漁業)は、昨年9月より個別漁獲割当制を導入しました。
取り組んでいる操業船は、境港を根拠地として日韓暫定水域および我が国水域で操業する当該漁業大臣許可船で、島根県5隻、鳥取県5隻、新潟県2隻、計12隻。
ベニズワイガニ(以下ベニガニ)は、深海生物であるため科学的知見も乏しく絶対資源量が把握できていないため、従ってTACも設定できません。TACのない個別漁獲割当制とは?アリですか?あるIQ信者の人は、そんな科学的根拠のない個別割当は詐欺だ、と言いましたが。

IQの合計値が、漁獲量の上限になるので、TACはあるはずです。そのTACが科学的見地に基づいて居ないと言うことですね。漁獲枠の合計がどうやって決められているにせよ、船ごとに漁獲枠が配分されているならば、IQ制度になります。厳密に言うと、IVQ(Individual Vessel Quota)と呼ぶべきでしょう。「あるIQ信者の人」というのは、むしろ、「科学的アセスメント信者」なのだとおもいます。私自身は漁業が上手くいけばよいのであって、科学的に厳密であると言うことはそれほど重視していません。むしろ、漁獲枠が設定できないような資源に対して、もっともらしく漁獲枠を設定する方が詐欺だとおもいます。

これには背景があります。
当初、当地のベニガニ資源回復計画(平成17年より実施)は、従来7~8月の禁漁期に1ヶ月の休漁追加をもって10%の漁獲努力量の削減をおこない、これ によって資源の減少傾向を止め、将来的には増加も期待する、というような、いささかぼやかした内容でスタートしました。スタートを切ることを第一義とした からです。
実際、この休漁でさえ、島根・鳥取・新潟のうち県からの支援体制ができたのは鳥取のみで、他船籍の船は、国と自前の分担金だけで休漁を決断した状態でした。
加えて、平成17年3月の油賠法の施行によるベニガニ加工原料の輸入停止、そして平成18年10月の北朝鮮核実験→経済制裁により北鮮漁場に出漁し ていた3隻の減船(国内漁場に操業船を増やさないための措置として)が相次いで起こり、加工・仲買サイドから休漁措置を見直してほしいとの要望が出されたわけです。
ちなみに当地では回復計画の実施を契機として平成17年より「境港ベニズワイガニ産業三者協議会」を立ち上げており(三者とは生産者・荷受け・加工 仲買)、当該計画の内容はもちろん、安定した需給を確保するための市場形成、自主的な相互監視体制の構築、付加価値向上や流通の改善、産物のPRなど、当 該産業に関わる全ての事項を合議・決定する体制にあります。
原則は「前浜あっての沖、沖あっての前浜」の精神です。

さて、原料の供給不足は必至であるが、それではここまで来た回復計画の取り組みを後退させるのか、という議論を当協議会で重ねた結果、「漁獲努力量」ではなく「漁獲量」で10%削減をしてはどうかとの案が浮上。ちょうど平成17年以降、暫定水域内の漁場を新規開拓したこともあって水揚げが上向きつつあったことを幸いに、「現状より後退しない」を是とし、平成18 年度漁期の各船漁獲量の10%を減じた量を上限とし、それを積算した量を総漁獲量上限とすることとしました(通常なら過去5中3の平均、といったところでしょうが)。

そして、更にその総枠を各船の実績に応じて再配分し、平均漁獲に満たない6隻の船に対しては、「暫定水域内の漁場を新規開拓したときに限り(暫定水域内は回復計画の対象外なので)」平均漁獲量までは獲れるようにする留保枠を設定しました。また、この措置に併せて、漁獲サイズ以下の資源を効率よく残すため、9㎝以下の小ガニを生きた状態で逃がすことのできる脱出口(リング)の導入を開始しました。これは平成23年には全カゴ換装の見込みです。リングの効果および各船の漁場別の体長組成調査は、鳥取県水産試験場と業界の共同研究という形をとり、継続してモニター中です。
これらの取り組みを全て合わせ、年間総漁獲可能枠約1万トンということで三者協議会において合意し、現在に至っております。この方式は適宜修正を加えていく必要があるかと思われますが、当面、平成23年まではこのまま動かしつつ様子見です。陸も沖も、常にモニターしながら今後の改善策(資源が回復した場合の増枠や譲渡可能にする妥当性の検討)を練る、というやり方です。

生産者にとってみれば、資源が増えてきてもこれ以上は獲れない→漁場を合理的に管理しカニ質を向上させることによって単価を上げる努力をせざるを得ない。
荷受けや加工仲買にとってみれば、従来の薄利多売型の商売方法にしがみつかず、質の向上したカニをより高価値で販売するための努力を開始せざるを得ない。
ということになり、本来利害の対立する2者および中に立つ1者が、それぞれ智恵を出し合い、死なない程度ギリギリのやせ我慢を続けられるバランス点を維持すること、これが継続のカギです。
結果として、漁期後半に入った現時点で、漁獲量が1割減にもかかわらず、漁獲金額は2割増、単価は最高で4割増というのが現況です。これを聞いて、ヨカッタではないですか、やはりIQですね、と喜び自己確認・持論肯定される方もおられましょうが、これまで述べ来たましたとおり、これで厳密にIQと呼べるのでしょうか。違いますね。

http://www.jfa.maff.go.jp/sigen/nihonkai%20benizuwai.pdfなどを読んで、概要は知っていたのですが、当事者に説明していただくと、大変勉強になります。

漁獲枠を船ごとに配分したから、単価を上げるインセンティブが生じて、結果として、限られた漁獲枠から多くの経済利益を引き出せたということです。IQ制度は、質で勝負する漁業への転換を促すという良い見本だと思います。まあ、「資源管理に基づく漁獲上限制」と呼ぼうと、IQと呼ぼうと、どうでも良い話です。「漁船ごとに漁獲枠を予め配分したら、単価が上がった」ということが重要です。オリンピック制度のままだったら、こうはならないですよね?

境港では、念のため「資源管理に基づく漁獲上限制」という名称にしております。
ま、地域が合意の上でちゃんと前に進めることができるなら名称は何だっていいわけですが、ややこしい人がたくさんいるご時世ですから、誤解は避けねばなりません。
また、カニという移動性の少ない、特にカゴ漁業という固定性の強い漁具において、このような管理ができたからといって、これに汎用性があるかと言えば、必ずしもそうではないでしょう。
逆に、あれはカニだからできたのだと言って終わりでは、何の進化にもつながらない。
要は、ここから日本の地域適応型管理漁業のエッセンスと可能性を抽出してほしいと願う次第です。

「個々の漁業者に上限漁獲枠が設定される→漁業者は漁獲の質で勝負するようになる」というメカニズムはカゴ漁業でなくとも機能します(現に海外では機能してます)。とくに、タコが足を食うように身内で熾烈な競争を繰り広げている某まき網漁業には効果覿面でしょう。

昨今のIQやITQをはじめとする日本漁業の再生理論は、とかく西洋型を模範としている傾向があり、これに対して日本型の管理方策、すなわちTAC・ TAE・IQ・その他可能性のある取り組み全てを含めて地域ごとに最も適した維持管理方法を早急に模索すべき時期なのですが、ZGRやFAGも反発心が先行するが故か遅々として進まず、といったように見受けます。少なくともこの課題について大きな組織が何を考えているのか、境港からは見えないし聞こえてきません。

西洋型、日本型という単純な二元論は物事の本質を誤ると思います。TACにしても、IQにしても発祥は海外です。
TAEというのは日本独自の名称ですが、努力量の規制は何処の国でもやっているでしょう。保護区、禁漁期なども、別に日本独自というものではありません。いわゆる日本の資源管理型漁業には、ポーズだけの実績作りが多いです。日本独自の現象と言えると思いますが、これが日本型管理ではないはずです。では、日本型というのは、なんなのでしょう?

ZGRは、なんのビジョンも無いのは明白です。FAGも若手を中心に危機感は高まっていますが、役所の中には処方箋が無いようです。要するに、困っているだけで、問題解決には動いていない(動けない)のが実情でしょう。

いずれにせよ、仮に大きな中央組織がアテにならないようであったとしても、たとえば現場の各漁業(産業)ベースの組織(既存の漁連単位、もしくは新 たな機構等の設立)に西洋案に代わる具体案を創出する機能を求めていく必要があると思っています。その中で欠かせないのが、金が出ない以上、関係者のやせ 我慢の臨界点を探るための調整であり、問題は、それをダレがやるのか、です。
抜本的改革が必要、と言う人が多い昨今ではありますが、現場から見るとそんな大げさなものではなく、今よりも一歩でも良い方向に進むために、地域や 漁業種類に最も適した取り組みを合理的に発想・選択し、それらを複合的に取り組み、継続する、ということだけなのです。手段は問いません。
つまり”抜本的”ではなく、地域ごとに短・中・長期的ビジョンをしっかりつくり、ひとつひとつこなしていく、ということに尽きます。

方法は問わず、上手くいけばそれで良いというのは、全く同感です。機能するなら、西洋案でも構わないと思いますが、なぜ西洋案ではだめなのですか。IQに関して言えば、日本の制度ではありませんが、機能するのはたしかです。個々の漁業者は自らの利益を増やそうとする以上、自分の漁獲量が限られれば、質を上げるように努力します。理論的にもそうなるし、現にIQを導入した漁業はそうなっています。現に、境港でも個別漁獲割当を導入して、漁獲量を減らしながら、漁獲金額が上がったではないですか。

私は、現在の漁業の問題点を分析した上で、長期的なグランドデザインが必要だと思います。今の漁業にはあるのは、当事者間の利害調整だけで、ビジョンなど無いでしょう。ZGRやFAGを批判するのは簡単ですが、漁業者にもビジョンがあるとは思えません。長期的ビジョンをもつというだけでも、漁業にとっては抜本的な変化だと思います。実際に出来ることは、小さいことを積み重ねていくのが近道かもしれませんが、どちらの方向に何を積み重ねていくかを決めるためには、長期的なビジョンが不可欠です。長期的なビジョンが無ければ、なにが「合理的」かをだれがどう判断するのでしょうか?

端的な表現になりますが、IQ派もアンチIQ派も、理論的にはそれぞれおありでしょうが(ない方もおられるようですが)、失礼ながら、いずれも頭の体操に見えるのです。勉強にはなるのですが。

アンチIQ派の理論というのはお目にかかったことがないですね。「漁業大国の日本が他国のマネをするなど、まかり成らん」というような心情論が全てだと思います。IQよりオリンピック制度が優れているという理論はありません。そのことを理論的に示せるなら、世界の水産資源学に革命的なインパクトを与えるでしょう。理論的に示せるものなら、示してもらいたいですね。

いずれの考え方にせよ、実際に、その理論でちゃんと現場を調整して資源管理へ向けて進んでごらんなさいと申し上げたい。公的に意見を述べる責任がそこにあると思います。分業でもいいのですけど、その場合は連携作業が必要になります。

研究者として、自らの理論には責任を持つつもりですが、それが実行に移されるかどうかは社会的な問題です。私自身は、現場の調整などという不向きな仕事をやるよりは、大きな方向性を示すことにエネルギーを費やすつもりです。このスタンスをどう評価するかどうかは、ひとそれぞれでしょうね。

水産の世間を見渡しますれば、漁師はもう信用できないとして全面的に大きな力で管理しようとするのか、あるいは、漁師は必ず自らを管理できるように なるとして新たな連携作りを構想するのか、あるいは論外ですが単に保身に腐心してうわべだけもっともらしく飾るのか、このへんで議論の方向性とこの問題に 対する姿勢が分かれているように見えます。私は、日本の水産業に関わる限り、有象無象の漁業者の可能性を追究し、徹底的につきあうスタンスをとっていただくことを各方面に期待しています。
たしかに中にはヒドイ漁業もありますが、これもまた、調整・教育・脅し(もとい危機感の煽り)によって活路を開けるものと考えています。いずれにしても今のままでは早晩死に絶えてゆくわけですから。

漁師は短期的な経済的な個人利益の追求という面では信用できますが、資源の持続的利用に関しては不安が残ります。信用できる部分は丸投げし、不安が残る部分は研究者&行政がサポートするのが重要でしょう。役割分担をしっかりすることです。それぞれの要素が、自らの役割について、しっかりと説明責任を果たせるようにすれば良いと思います。

漁業者が利益を伸ばすために努力をすると持続的に漁業が発展するようなルールをつくるのが、私の仕事です。現状では、ITQが最もその理想に近いルールです。もし、ITQよりも優れたルールが見つかれば、その瞬間にでもそちらに乗り換えます。

スケソウやサバ、漁獲可能量見直し 「資源守る基準超す」と批判

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 水産庁は、漁獲可能量(TAC)を見直す方針を固めた。TACの大半が、資源枯渇を防ぐ目安となる生物学的許容漁獲量(ABC)を上回り、専門家の批判の対象になっているためだ。ABCを上回るTACを設定する傾向は以前から続いており、サバは漁獲量がTACを超えたこともある。こうしたTAC設定の理由について、水産庁は「漁業者の経営が成り立つかどうかも考慮している」と説明するが、専門家は「資源管理が機能していない」「TAC設定の根拠が不透明」などと問題視していた。
 近く発足するTACのあり方を議論する会合では、ABCを超過するTACをできるだけ解消する方向で、より厳格な資源管理の方策を議論する。また、漁獲総量がTACに達した時点で操業を打ち切る現在の管理方式は、総量に達するまでの間、漁業者間の過剰な漁獲競争を招く恐れも指摘されており個別の漁業者に漁獲枠を割り当てる方式の導入も検討する。
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/agriculture/85241.html

北海道新聞の記事です。一般紙でも、資源管理の話題が出るようになりましたね。
誰だか知らないけど、専門家はGJだな。

これは、わかりやすくまとめられている、良い記事だとおもいました。
1)ABCを超過するTACをできるだけ解消する方向で、より厳格な資源管理の方策を議論する
2)オリンピック方式からIQへの移行も検討する
という結論に関しても妥当ですね。実際にABCとTACの乖離を少なくする方向で動いているようです。
(ただし、現在のTACにあわせてABCを上げる圧力が強まっているので注意が必要です)
また、IQの導入も時間の問題でしょう。オリンピック方式を続ける理屈がないですから。

ゆっくりではありますが、資源管理をちゃんとやろうという方向に世の中は動いています。
だから、資源管理反対派は相当に焦っているようですね。
「ABCなんて無視しても良い」と吠えている人もいますが、ごく少数です。
言っていることが支離滅裂だし、世間の支持は得られていないので、放置しておけば良いでしょう。

TAC制度に関しては、導入の経緯からしてグダグダだったので、
最初の数年は資源管理として機能しないのはしょうがない面もある。
ただ、TAC制度が始まって10年が経過しているのだから、
「制度として未完成である」などという言い訳はさすがに通用しない。
「(A)今までは管理できていなかったけど、これからはまじめにやります」ということであれば、
過去についてはとやかく言っても仕方がないでしょう。
しかし、「(B)今までもTAC制度は機能していたし、これからも同じようにやります」と開き直るなら、
過去に遡って、TACの設定根拠の妥当性が徹底的に追求せざるをえない。
俺としても、日本の漁業をどうやって良くしていくかを前向きに議論していきたいので、
(A)のTAC制度をきちんと見直すという方向でお願いしますよ、本当に。

今回の見直しには世間の注目が集まっているので、いい加減なことは出来ない。
逆に、ちゃんとした見直しをすれば、水産庁の株はぐっと上がるはずだ。
特定漁業者の顔色ばかりをうかがわずに、
納税者全体に対して、水産庁の存在意義を示して欲しい。

秋田のハタハタは漁獲量6割減でも、漁獲金額は横ばい

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 今季のハタハタの漁獲状況は昨季の6割程度だったことが県水産漁港課のまとめでわかった。資源保護のため、漁師が小型魚の捕獲を自粛した影響が大きいという。11、12月の調査で小型魚が多かったため漁を自粛した。
 漁獲減少に伴い1キロあたりの単価は昨年の約1・6倍の509円に上がり、漁獲金額は約8億1918万円で昨季(約8億3611万円)とほぼ横ばいだった。
http://mainichi.jp/area/akita/news/20080403ddlk05020106000c.html


漁獲量を4割削減しても、大型魚を選択的に獲ったために漁獲金額はほぼ横ばい。
こういうのを資源管理というのだよ!
近いうちに、杉山さんのところにも聞き取り調査に行かねばならないな。

ここで重要なポイントは、2つある。
1)資源が減りきる前に、漁獲量を削減したこと
2)価格の弾力性の低い(量が減っても値段が上がらない)小型個体の漁獲を控えたこと

資源管理できていない漁業では、資源が枯渇してから漁獲量が下がる。
資源が枯渇すれば、まず最初に姿を消すのは大型個体である。
資源を減らしてしまうと、漁獲量だけでなく、単価も下がるのである。
こうなると、どうやったところで、経営は成り立たない。
早めに漁獲量を減らすことで、利益を確保しながら、資源を守ることが出来る。

原油が高いので、漁獲量を減らして売り上げを確保するという戦略は効果的だろう。
ハタハタは良いタイミングで禁漁にして、資源を回復させたのだが、
その後は値段が下がったりして、心配していたのだが、杞憂だったね。

あと、「11、12月の調査で小型魚が多かったため漁を自粛した」という部分もポイントが高い。
分布を調査して、それに基づいて素早く人間が対応する。これこそ順応的管理だよ。
サンプリングする人間と、意思決定をする人間と、漁業者が同一であれば、
順応的管理は極めて有効に機能するはずだ。
順応的管理という観点からも、注目をしていきたい。

沿岸漁業の自主管理というのは、無限の可能性を秘めていると思う。
適切な措置を執れば、数年後には大きな経済的リターンが得られるはずだ。
ただ、ハタハタを含む少数の成功例があるだけで、あまり効果が出ていない。
「形式的な管理ごっこで、お役所の実績作りに協力して、補助金をゲットー」みたいな話が多い。
こんな状況で「日本には、お家芸の自主管理があります」とか言うから、聞いている方が恥ずかしくなる。
資源管理とは漁業者が持続的に利益を得るために行うものであり、行政の実績作りのためのものではない。
持続的に利益を出せている沿岸漁業が少なすぎる。それが、沿岸漁業衰退の根本原因だろう。

俺は沿岸の自主管理には大いに期待をしている。だから、現状では全く満足していない。
日本の沿岸資源の大半が、ハタハタのレベルで管理される日まで、文句を言い続ける。

全漁連の考察を考察する(その1)

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俺としては、「全漁連は日本漁業を、こうやってプロデュースしていきます!」みたいな全漁連としての将来構想みたいなのを期待しているのだが、「髙木委員提言のここがだめ、そこがダメ」といった揚げ足取りしかしていない。建設的な対案を出せる組織ではないのだろうか。

ITQに対する警戒感が高いようだが、その心配が妥当かどうかを考察してみよう。

また高木委員会はIQを自由に売買する(典型的には入札方式の)譲渡可能個別割当ITQ制度を推奨しながら、それをほとんどIQ制度と同様のものとして説明しているが、IQ制度とITQ制度の間には非常に大きな距離があるのである。ITQ制度の下では、高値で割当量を買える資金力のある者が割当量を集中して保有し、それを購入できない者は廃業するか小作経営化せざるをえなくなる。IQ制度が資源管理の手法であるのに対して、ITQ制度は「効率的」経営体(実は資金調達力のある経営体)のみを残存させ、それ以外の経営体を排除していく経営体選別の手法にほかならず、両者は社会的経済的次元では全く異なる意味を持っているのである。

ニュージーランド、アイスランド、ノルウェーなど殆どの国で、ITQの漁獲枠は過去の実績に応じて配分されている。既得権を重視する日本でも、当然そうなるだろう。ITQの漁獲枠がオークションで取引されるのは、チリ、エストニアなどで、十分に利用されていない資源がある場合が多い。既得権として漁獲枠を保証することで、投資を促進しようという戦略である。日本では枯渇した資源に対して漁業者が多すぎるので、オークションで新たに配分するような漁獲枠は無い。ITQを導入したところで、漁業者が漁獲枠を手放さない限り、企業は漁獲枠を買うことは出来ないのである。ITQを導入すると漁業者の既得権は全て取り上げられて、資金力がある人間がオークションで漁獲枠を独占するというようなことは非現実的である。

ITQでは、資金調達力のある経営体のみが存続するというのは誤りだが、「IQとITQが社会的経済的次元では全く異なる意味を持っている」という指摘は正しい。日本漁業が抱えている社会経済的な問題を考慮すると、IQでは不十分で、ノルウェー型の漁獲枠の譲渡制度が不可欠である。日本には、借金を背負って、撤退も出来ない漁業者が大勢いる。彼らが借金の利子を減らすために、なりふり構わず資源を傷つけている。現状では漁業から撤退しても借金が残るだけである。もし、ITQが導入されれば、漁獲枠を手放すことで、撤退資金ぐらいにはなるだろう。不良債権化した過剰努力量を解消するために、漁獲枠の譲渡は必要なのである。もし、資源管理がIQ止まりであれば、過剰な努力量がそのまま温存され、みんなで貧乏→みんなで倒産ということになるだろう。現状の生物の生産力で養える規模まで漁業を縮小させなければならない。資金がショートして夜逃げをするより、漁獲枠を譲渡してスムーズに撤退した方が、漁業者にとっても良いと思うのだが、どうだろうか。

サバも養殖ですか。餌は小サバ?

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若狭のサバ 養殖で復活…福井・小浜市の県立大水産資源生物学研究室
 かつて若狭湾でとれた魚介類を京都まで運んだ「鯖街道」。だが、材料は実のところ、ノルウェーなど外国産のサバが多いのだ。
 「やっぱり、小浜といえばサバ。おいしい地物の若狭のサバを復活させたい」。県立大生物資源学部海洋生物資源学科の青海(せいかい)忠久教授(58)は1999年の同大学赴任をきっかけに、サバの養殖研究に乗り出した。
 若狭のサバ 福井県内のサバ類の漁獲量は、1970年代、80年代はおおむね2000~4000トンで推移していたが、95年以降は毎年650トンに満たず、2004年はわずか54トンにまで激減している。県は08年度に復活推進事業として、嶺南4か所でマサバの育成を始める
http://osaka.yomiuri.co.jp/edu_news/20080401kk04.htm

マサバの未成魚を養殖の餌として乱獲して、資源を枯渇させたのだけど、
サバが獲れなくなったから、今度は養殖ですか。
なんともシュールですなぁ。餌が小サバだったりして。

サバを養殖するより、サバの未成魚をブリ養殖の餌にするのを止めた方が、
環境にも消費者にも幸せな結果をもたらすと思う。
ただ、資源管理がまるでできていない現状では、
生簀に囲い込む以外に大型魚を安定供給する方法が無いから、
こういう方向に行くのはしょうがないのかなぁ。なんか切ないです。


 

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