先日、境港のまき網船を135トンから250トンに大型化する計画が新たに判明し、周辺の沿岸漁民に不安と動揺が広がった。対馬、壱岐、見島、隠岐といった日本海の離島の漁業は、クロマグロをはじめとする漁業資源の枯渇によって、存亡の危機に瀕している。資源減少の主要因は、日本の大型巻き網船団による乱獲である。資源が減少して、主要産業である漁業が成り立たなくなれば、離島の過疎化は一気に加速するだろう。日本海の離島が無人島になれば、竹島のように実効占拠されかねず、国防上も大問題である。巻き網船の大型化は、離島の生活を破壊し、将来の領土問題を引き起こしかねない。

壱岐の勝本漁協は、資源を持続的に利用するために、自分の漁場での網漁具の使用を禁止してきた。その結果、クロマグロをはじめとする豊富な資源に恵まれ、大勢の組合員が釣り漁業で生計を立てていた。2004年から、巻き網船団がクロマグロ産卵場での操業を開始した後に、クロマグロの漁獲が直線的に減少している。2009年から、巻き網船団は産卵場に南下する前の未成魚を狙った操業を活発化している。こういう漁獲をすれば、大型個体を狙っていた離島の一本釣り漁業が成り立たなくなるのは自明である。日本海でも、マイワシ、サバ、アジなどの巻き網の漁獲対象魚種は、ことごとく減少している。沿岸漁業者が巻き網漁船の大型化に神経をとがらせるのは当然であろう。

周辺漁民の猛反発が予想される巻き網漁船大型化計画は秘密裏に進められた。計画の存在が、周辺漁民に知らされたのが8月12日。その2週間後の8月26日には、審議会を開いて、計画を承認する段取りになっていた。たった2週間では、反対意見のとりまとめもままならない。あまりにも、唐突であり、「だまし討ちされた」という印象をもつ沿岸漁業者も多い。今回の大型化計画は、山口県の猛反対により、延期されることになった。周辺漁民の理解を得た上で進めるべきという判断を下した水産庁長官の英断である。離島の一本釣り漁業も何とか首の皮がつながったという状況だろう。
日本と韓国、中国の間には数多くの離島が存在する。いくら、日本政府が「領土問題は無い」と主張したところで、相手国が領有権を主張しているのだから、領土問題は存在するのである。離島が無人島であれば、漁船や移民を送り込んで、実効支配をしているという既成事実を作ることが出来る。無人島を維持するには、海上保安庁の献身的努力や政治力、軍事力など様々なコストがかかる。それでも、竹島のように実効支配をされてしまった事例すらある。
もし、離島に大勢の日本人が生活しているなら、日本の領土であることは、誰の目にも明らかである。軍事的に侵略すれば国際社会の非難を浴びるし、移民を送り込んで乗っ取るのもむずかしい。離島に人が住むには、産業が必要になる。離島の基幹産業である漁業を守ることは、日本の領土を守る上で重要なのである。周辺国が虎視眈々と日本の離島を狙っている状況で、わざわざ離島の生活基盤を税金で破壊するのは、愚かとしか言いようがない。このまま日本海の離島の過疎化が進めば、確実に国防上の問題に発展するだろう。
離島に今後も人が住み続けるには、漁師が生計を立るのに十分な資源水準を維持しなくてはならない。所得補償をして、税金で飯を食わせればよいという問題ではない。漁業を公共事業化すれば、短期的には離島の人口減少を食い止められるかもしれないが、長い目で見れば、離島の基幹産業としての漁業を殺し、漁村の新陳代謝を失わせて、取り返しのつかない事態を招くだろう。補助金の切れ目が、生活の切れ目となり、長い目で見て島は生き残れない。離島に今後も日本人が住み続けるには、資源管理を徹底して、漁民が魚を捕って生計を立てるのに十分な資源を維持しないといけない。
資源管理コース
資源回復→離島の生活基盤安定→離島の人口維持→領土問題を未然に防げる
過剰漁獲コース
巻き網船大型化→資源の枯渇→離島の漁業が衰退→過疎化→領土問題が勃発
筆者は、効率的な巻き網漁法が、今後の日本漁業の中核を担っていくべきだと考えている。現在の巻き網漁船の劣悪な住環境を改善するには、250トンへの大型化が不可欠なこともわかる。しかし、巻き網船を大型化するのは、漁業管理を徹底し、資源を回復させた後の話である。今の資源状態では、大型化した巻き網漁船すら生き残れない。すでに巻き網の漁獲能力は、自然の生産力と比べて過剰な状態である。乱獲状態の解消には、公的資金による減船が不可欠である。その上で、個別保障とセットにした漁獲規制を行い、資源を回復させなくてはならない。そこまでやれば、巻き網漁業は利益を生むようになるし、資源減少により瀕死の沿岸漁業も生き返るだろう。
結論
今、日本がやるべき事は、巻き網漁船の大型化ではなく、資源管理・資源回復である